アイスマッサージの唾液分泌抑制効果
はじめに
先月の法人の勉強会では 「唾液と口内乾燥」 と題してSTさんに発表してもらいました
口腔乾燥にも分類(柿木分類)があるなど、知らないことも多かったです(・_・;)
北海道大学歯学部口腔診断内科 様HPより引用
今回の教えていただいた「口腔乾燥」とは真逆になるのですが、僕の場合は特にALSの患者さんで、唾液の出過ぎである「唾液分泌過多」で悩まれている方に結構な確率で遭遇します
唾液(いわゆるツバ)が上手く飲み込みにくくて、息苦しさを感じたり、咽(むせ)てしまったり、そんなのが原因で寝れなかったり、肺の方に入ってしまって慢性的な肺炎になってしまう方がいます
そういった方には口角を下に向けるポジショニングをとってもらったり、口腔ケアで使うスポンジを咥えてもらったり、金魚のポンプを使った持続吸引装置 を口腔内に入れての吸引で対応することあるのですが、それでもうまくいかない場合も多くあります
また抗コリン剤( アーテン® や ポラキス® )の副作用である「口渇」を利用して、主治医と相談してそれを敢えて服用される方もいますが、別の副作用の「便秘」や「尿閉」などになってしまい、仕方なく服薬を辞めてしまう方もいます
それで今回発表されたSTの方に「唾液分泌過多」に対して在宅で出来るような事はないかと伺ってみた所、アイスマッサージに唾液抑制効果があることを教えて頂けました
おかげで以下の文献に辿り着く事ができました
「寒冷刺激器による唾液腺上の皮膚アイスマッサージが健常成人の唾液分泌に及ぼす影響」.木口らん,藤島一郎,等:日摂食嚥下リハ会誌11(3):179-186.2007
この文献を読むと、アイスマッサージによる即時的な効果だけでなく、長期的(7日間)な効果も得られていることに驚きました
在宅でも確かにできそうな方法でした
しかし、この論文の中で紹介されてる寒冷刺激器は「酒井医療器のSC-100」という商品になるのですが、見た目はカッコいいですが、結構高価(¥18360)で気軽に手を出しにくいですね
そこで前述のSTさんに市販されているキャップ付きの缶コーヒー(アルミ製)で代用する方法 も教えて頂きました
こんな缶です
この容器に7、8割氷を入れ、何回か振って冷たくした後、キャップ部分を使って寒冷刺激を与えるそうです
ただ凍傷のリスクもあるので、可能であれば入院中や訪問リハビリでSTさんから手解きを受けたり、訪問看護師さんからアドバイスを求めた方がいいと思います
教えてくれたSTさんに多謝
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アイスマッサージの具体的な方法
【2015年11月25日追記】
アイスマッサージの具体的な方法について聞かれる事が多くなったので紹介します。
以下はweb上で公開されている情報で、どうも今回の論文の作者(木口らん先生)が執筆に関わっている様です。
以下は「Ⅰ-6 唾液腺のアイスマッサージ」の所に記載されていたものの引用です。
日摂食嚥下リハ会誌 18(1):55–89, 2014 訓練法のまとめ(2014 版)
(意義)
唾液腺上の皮膚をアイスマッサージする事により、唾液を減少させる
(主な対象者)
流涎(リュウゼン)の多い患者、絶えず唾液でむせている患者
(具体的方法)
寒冷刺激器(アイスクリッカー®)に氷、水をいれる。寒冷刺激器がない場合はビニール袋に氷を入れて代用することが可能。唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)上の皮膚に寒冷刺激器を当て、回すようにしてマッサージする。一箇所につき10~15秒間マッサージする。1クール5~10分、皮膚が軽く発赤するくらいまで行う。1日3クール行う。皮膚が濡れた場合は乾いた布でよく拭き取る。冷たすぎて患者が耐えられない場合は時間を短くして行う。
(注意点など)
効果がでるまで2~3週間かかることが多く根気強く続ける。2~3週間後に効果を確認する。長時間同じ所に当て続けない(1時間以上同じ所にあてていて凍傷につながった例あり)。終了後皮膚の状態を観察する。患者が嫌がる場合は無理に行わない。急に流涎が増えた場合は、脳卒中再発や口腔内疾患などの原因がないか確認する。
唾液腺の位置について
http://www.yoneyama-dc.com/pg264.html より引用
耳下腺(じかせん)・・・耳の前で頬(ほほ)の奥歯あたり 顎下腺(がっかせん)・・・顎(あご)の骨の内側の柔らかい部分 舌下腺(せっかせん)・・・顎の真下 |
もうちょっとリアルに各唾液腺をみたい方はこちら
これらの部分にアイスマッサージをします
持続吸引器について
持続吸引器は高価(5~17万)なので、以下の「金魚のポンプ」で代用することが多いです
その理由ですが、持続吸引器が必要な方は通常の吸引器も必要になります
持続吸引器で普通の吸引器の代用ができたらいいのですが、持続吸引器の吸引圧は低く過ぎて代用できないためです
気管吸引ガイドラインでは、適切な吸引圧は-20kpa(キロパスカル)以下となっています
以下なので低ければ低いほど気管などの組織を傷めることがなくてとってもいいのですが、あまりにも低すぎると痰を十分吸引できないんですね
通常の吸引器では最大-80kpaのものもあるので十分過ぎるぐらいありますが、持続吸引器の吸引圧は僕が知ってる最大のものでも-99cmH2O(=-7.23kpa)なので全然足りません
ちなみに「金魚のポンプ」の最大吸引圧は-11kpaで結構あります
障害者手帳を持っている方は、痰を取る機械に5万程度の補助がでる場合がありますが、普通の吸引器だけでも5万近くするので、持続吸引器は殆ど全額自己負担になっちゃいます
そういった事情もあって「金魚のポンプ」を使われる方が多いです
実際に「金魚のポンプ」でうまくいっている方もいますし
現実的には「金魚のポンプ」でうまくいかなかった場合に、持続吸引器の購入を考慮してもいいかもしれません
5万以上もする持続吸引器を買ったけど本人に合わず使えなかった……となったら結構なダメージを負ってしまうのではないでしょうか?
それを防ぐためにお試しで持続吸引器を使わせてくれたらいいのですが……通常の吸引器ならレンタルしてくれる会社はあるのですが、持続吸引器を貸してくれる会社は僕は知りません
残念…
通常の吸引器
持続吸引器
ペットボトルを2つ繋げて使う方法で使ってもらっています
その方が唾液が逆流してポンプが駄目になるのを防ぎやすいとの事
ペッボトルどうしを繫ぐチューブとキャップはポンプを売っている所(シースターショッピング)で購入しました
ポンプ本体やこれら付属品を購入しても1万未満で用意できます
こんなんで大丈夫か?と当初思いましたが、口腔内にいれておく吸引カテーテルの違和感が少ない方には比較的大丈夫な印象です
この商品は作動音が静かなので、ベッドサイドに置いて使ってもらっています
最近買った「金魚のポンプ」の持続吸引装置の設置方法
2011年ごろから「金魚のポンプ」は「シースターメディカルマーケット」さんから何度か購入しました
一週間のお試しもさせてもらえて非常に助かりました
しかし今回も購入しようとした所、もう販売されていなかったため「Happy Baby」さんで購入
ネットの注文画面では、入荷待ちという表示だったので電話連絡してみた所、こちらの会社も非常に丁寧に対応して頂けました
本当にありがとうございます
今回も「金魚のポンプ本体」 と 逆流予防のために「キャップ付チューブ」を注文
【追記 2018/08/04 Happy Babyさんでの取扱もなくなってしまった様なので別の取扱会社のリンクを貼っておきます】
【追記 終わり】
こんな形で届きました
内容物
「金魚のポンプ」を購入すると、「金魚のポンプ」本体、14Frの吸引カテーテル1本、吸引カテーテルと接続する際に使うコネクタのついたキャップ付きチューブ1個が入っています
これだけでも持続吸引はできない事はないのですが、追加でキャップ付きチューブセットを購入してペットボトルを2個繋げて持続吸引装置を組んだ方が、ポンプの故障を防ぎやすいので、キャップ付きチューブセットを追加注文しました
これから紹介するのは、僕が持続吸引装置を組むことを看護師さんから頼まれた際にしている方法になります
なので実際に患者さんに使ってもらう前に、主治医や担当訪問看護師に確認して貰ってください
命にも関わりますのでご注意を。
①まずはポンプに繫ぐペットボトル(2個) ペットボトルを入れるカゴを用意
ペッドボトルは炭酸飲料の入ったものか、冬場にコンビニでよく売られている温かい清涼飲料の入ったペットボトルの容器が固く凹みにくくておススメ
フック付きのカゴはダイソーで購入
メッシュのカゴの方がペットボトルの中の様子が見れるのでいいと思います
またフック付きの方がベッドサイドの柵に引っ掛けておけるので便利
ただこのままだとペットボトルがカゴの中で動いてしまって安定しないので、アルミワイヤーなどを使ってペットボトルが動かない様に加工します
(ペットボトルが倒れてしまうと逆流しやすくなるため)
こんな感じ
カゴがメッシュなのでワイヤーで固定しやすいです
②ペットボトルの中身を飲んで、チューブ付きキャップに付け替え、ポンプ本体に繋ぎます
ペットボトルのキャップを替えます
本体に繋ぎます
全体はこんな感じ
付属の吸引カテーテルを使うのであれば、簡単にこのコネクタに繋げて問題なく吸引できるのですが、次に紹介する渦巻きの吸引カテーテル(メラ唾液持続吸引チューブ)の接続管の内径は本体付属のコネクタ部分より大きいためこのままコネクタに繫ぐ事ができません
メラ唾液持続吸引チューブ
通常の吸引器で使う接続管を間に挟む形で使っています (※ 動作保障はできませんので自己責任でお願いします)
「金魚のポンプのコネクタ」につないだ接続管
これにメラ唾液持続吸引チューブの接続管を繋いで使っています
※またペットボトル間、ペットボトルとポンプ本体の間のチューブが長いと吸引が十分に行われない場合があり、適宜カットするとうまくいった事がありました
渦巻きの吸引カテーテル(メラ唾液持続吸引チューブ)
また、どうしても通常の吸引カテーテルを口の中に入れておくのに違和感が強かったり、知らぬ間にカテーテルが口から自然と出て行ってしまうといった方には、下のカテーテルが上手く行ったことがあるのでご紹介します
カテーテルの先が渦巻きになっていて、舌の上に載せておいても違和感が少ないとの事でした
またカテーテルが自然と出て行ってしまう方には、上手いこと口の中で渦巻きが錨(いかり)の役割をしてくれて、勝手に出て行く事が減った様です
デメリットとしてはむっちゃ高価な事( 10本1万円!)と、ついつい噛んでしまって穴があいたら使えなくなってしまう事ですね
こちらがメーカーのHP
MERA 泉工医科工業株式会社|患者の皆様へ – メラ唾液持続吸引チューブ
((注意))
今回紹介した物品などは、購入される前に関わっているDrや訪問看護師、リハビリスタッフなどにまず相談する事を強くおススメします お安く購入する方法、リスク管理などについていいアドバイスが頂けると思いますよ |
誰かの何かの参考にしていただけたら嬉しいです
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