聴診の話③(肺区域・ランドマーク・目印)
前回までは上葉・中葉・下葉の位置関係について説明してきたのですが、体位ドレナージ(体位排痰法)は上葉・中葉・下葉ではなく、それよりも細かい肺区域であるS1~S10に対応して作られています
その体位排痰法とはこんなの( 以前に紹介したスライド)
そのため、体位ドレナージを使うためにも肺区域である S1~S10がわからないといけないのでこれら説明していきます
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肺区域(S1 ~ S10)の説明
前回までの記事で、肺には上葉・中葉・下葉があることがわかっていただけたと思います
その上葉は肺区域のS1~S3が合わさったもの、中葉(左肺では上葉の舌区)はS4とS5、下葉はS6~S10 が合わさったものになります
S とかでてきてややこしい感じですが、簡単な覚え方もありますので、ちょっとしんどいですがついてきて下さい
肺は気管支の先に左右10個ずつの部屋があり、それが合わさったものです
主な気管支にはそれぞれに名前がついていて、B1、B2・・・・・・、B10 といい、その気管支の先にある部屋もそれぞれS1、右S2……、S10 と名前がついています
このB とかS はというのは、
気管支は木の枝みたいなので Branchブランチ(枝)の「B」
肺区域は Segmentセグメント(区域)の「S」、 からとったものです
つまり左右10本の主な気管支Bの先には左右10個の部屋Sが必ずあるわけなんです
解剖的な位置関係で何個かの部屋Sを集めて上葉・中葉・下葉といっているだけです
上の左の図は左右の肺区域(S1~S10)の場所をあらわしていますが、この図だけを見て肺区域(S)の場所を全部覚えてっていわれても普通に難しいですよね
肺区域(S)の場所の覚え方には実はコツがあって、気管支のB1~10の先には必ずS1~10があるのでそれを利用します
つまり気管支B1~10の方向を覚える事でS1~10の場所を覚えちゃいましょう、という魂胆です
ただ問題があってその気管支の方向なんですが無茶苦茶あるんですね
こんな感じ(´ω`;)
そこで昔の医学者の方が気管支の方向を、自分の身体を使って覚えた方が覚えやすいやろ、という事で「気管支体操」というものが作られました
昔の参考書などではよく紹介されているのですが、それよりも覚えやすく工夫されたバージョンが現在ではあるので紹介します
それは滋賀医大講師の長尾先生がHPで紹介されている方法です
その名もブロンコ体操
ぼくはこの体操のおかげで気管支の方向を覚える事が簡単にできました
このブロンコ体操についてですが、詳しくはコチラの長尾先生のHPを参照してください
簡単に説明してみます
この体操のは自分自身を肺だと思って「1,2,3、…10」と声を出しながら手を動かしていくものになります
右前腕 が 右側の気管支 で、右手がその気管支の先にある肺区域
左前腕 が 左側の気管支 で、左手がその気管支の先にある肺区域
この体操を何度も何度もしていると自然と覚えることができます
またこのブロンコ体操のいい所は、手を上にした姿勢が体位ドレナージの姿勢とある程度一致する ので排痰体位が覚えやすくなる、というオマケ付きです
ブロンコ体操の時、前腕が垂直になるようにするとそのまま排痰体位になっちゃいます
排痰体位とはこんなの
他にもブロンコ体操のメリットがあります
それば教科書とかに出ている排痰体位はのは殆どが右側ばっかりなのですが、みなさん左はどうなの?と思った事はないでしょうか?
ブロンコ体操の左前腕が左側の気管支の方向、左手が左側の肺区域に対応しているため、ブロンコ体操で左側の排痰体位もある程度推測できちゃうんですね
ブラボー!
右の主気管支が左よりも太く(内径 右:15mm/左:12mm)角度も急(右:25°/左:45°)なため、右側の肺の方が病変が起きやすいとよく言われていますが、臨床では左側の肺にも病変が観られる事が普通にあります
そのため左側の排痰体位をとりたい場面というのは結構あるんですね
そういう時にもこのブロンコ体操はヒジョーに役立つ訳です
かなりメリットが大きいのでブロンコ体操を覚えてしまう事を強く勧めます
話を戻します
ブロンコ体操で気管支の位置関係がある程度理解できたら、ややこしそうに思った下のスライドの肺区域の位置関係もかなりイメージしやすくなる思います
「上のこの図を見て覚えて」って言われても難しいですから、ブロンコ体操で体で覚えちゃいましょう!
「自分が聴診している所がSのどこなのか」を見つける方法
では実際に患者さんを目の前にして、「今自分が聴診している所がSのどこにあたるのか?」や「どの排痰体位をとらせたらいいのか?」を知りたかったらどうしたらいいのでしょう?
後から詳しく説明しますが聴診によって痰が溜まっているのが中枢なのか、末梢なのかがわかります
もし聴診などによって末梢気道にある痰である可能性が濃厚であるなら、聴診している部位がどの肺区域(S)になるかブロンコ体操で見つけます
同時にブロンコ体操でその肺区域に繋がる気管支の向きもわかります
ということは痰の溜まっている肺区域の排痰体位もとれちゃうわけ
その排痰体位で、もし意思疎通ができる患者さんであれば、深呼吸や中等量からのハッフィングをしてもらって、吸引カテーテルで吸引が可能な主気管支レベルまで上げてもらいます(痰が上がったかどうかも聴診でわかりますよ:後述)
意思疎通が難しい患者さんの場合は、こちらが呼吸介助やスクイージングなどの各種排痰手技を行って中枢気道に痰を上げます
優先順位としては呼吸介助もスクイージングも介助者が必要なので、自分で痰を上げる深呼吸やハッフィングの方が優先順位は高いと思います
介助者を24時間雇っておけるようなアラブの富豪は少ないですから
中枢気道まで痰が上がってきたら、咳嗽(咳をしてもらったり)や咳嗽介助、あるいは吸引などで痰を取ってしまいましょう
この中枢気道まで痰が上がって来ることも聴診でわかります(後述)
ちょっと排痰の所で話が別方向にいってしまったので、話を戻します
聴診に絡めた排痰については後で詳しく言います
ただ注意点が1つあり
それは上葉・中葉・下葉の大枠をはずさないようにする、という事です
隣り合った肺区域でも気管支の向きって全然違いますから
隣り合った肺区域の例としてS3とS4とあげてみましょう
ちょっとずれるだけで気管支の向きは全然ちゃいますね
という事はとるべき排痰体位も違うという事です
ここで隣り合った肺区域をきちんと区別するのに「上葉は前から見た時、第4肋骨より上」など、上葉・中葉・下葉の位置関係を骨をランドマークでにして見つけてきた事が生きてきます
図で説明してきます
まず前から
前回までの記事を参考にしていただいて 上葉・中葉・下葉の場所の大枠 を把握したら
上葉は第4肋骨より上 ⇒ 上葉はS1~3⇒ ブロンコ体操してみて前面にくるのはS1,S3
中葉は第4肋骨より下で第6肋骨より上⇒ 中葉はS4,S5⇒ ブロンコ体操してみて前面にくるのはS4,S5
今度は横から
この記事を参考にしていただいて 上葉・中葉・下葉の位置 を把握したら
上葉は第2胸椎棘突起と第4肋骨を結んだ線より上⇒ 上葉はS1~3⇒ ブロンコ体操で埋める
中葉は第2胸椎棘突起と第4と6肋骨を結んだ線の間で、中腋窩線より腹側⇒ 中葉はS4,5⇒ ブロンコ体操で埋める
下葉は第2胸椎棘突起と第6肋骨を結んだ線より下で第8肋骨より上⇒ 下葉はS6~S10⇒ ブロンコ体操で埋める
最後に後ろから
この記事を参考にしていただいて 上葉・中葉・下葉の位置 を把握したら
上葉は第2胸椎棘突起と腋窩を結んだ線より上⇒ 上葉はS1~3⇒ ブロンコ体操で埋める
下葉は第2胸椎棘突起と腋窩を結んだ線と第10肋骨より上⇒ 下葉はS6~10⇒ ブロンコ体操で埋める
ぼくも初めのうちは患者さんの前でブロンコ体操をしていたので、患者さんからは不思議そうな目でみられしまいました(・_・;)
今はもう大丈夫!
練習問題
覚えやすいように下に練習問題(PDFファイル)を作ったのでプリントアウトしてチラチラみて下さい
そのうち目に焼き付いてくると思います
問題編
回答編
こちらがダウンロード用PDFファイル
⇒ 肺区域練習問題
これで S1~S10の場所が分かったので、どの排痰体位をとればよいのかということ が分かったと思います
しかし、そもそもS1~S10という場所が分かっても痰が溜まっている という事が分からなければ排痰体位は使えません
ではどうやってそこに痰があるかどうかが分かるのでしょうか?
それは聴診した時の「音」で判断するんです
それがはじめに聴診のポイントで紹介した2の「どんな音が聞こえているのか」 や3の「どのタイミングでその音が聞こえてくるのか」 によって痰があるのか、ないのかを判断します
続きはコチラ ⇒ 聴診時の「音」について
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