自分で痰を出しやすくする方法(ハッフィング)についてまとめてみた
はじめに
ぼくの普段の臨床(訪問リハビリテーション)では、痰を自分で出す方法として咳(咳嗽)が上手にできない患者さんにこのハッフィング(= 強制呼出:huffing)をしてもらう事が結構あります
医療関係者なら排痰(手技)といえば「スクイージング」や「呼吸介助」を思い浮かべる方も多いかもしれません
これらの手技ももちろん排痰に優れていますが誰かに胸を押さえてもらわないといけないんですね
アラブのお金持ちなら胸を押さえてくれる人を2、3人雇っておけるかもしれませんが………現実的ではないですね
しかしこのハッフィングは患者さん自身で痰を出しやすくする方法になります
患者さんが自分が痰を出したい時に出せるというのは、とっても素敵な事ではないでしょうか?
そんなハッフィングなのですが、人によっては他の排痰手技と混同している方もいるので今回まとめてみます
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ハッフィングの定義・方法
定義は 「肺理学療法標準手技」のP42に以下の様に書かれています
気道内分泌物の移動を目的として、声門を開いたまま強制的に呼出を行うこと
ただ同じハッフィングでも中枢気道にある痰を出したい場合 と、末梢気道にある痰を出したい場合 とで方法が異なるので注意が必要です
また中枢気道に痰がある場合と末梢気道に痰がある場合では、傍(はた)から観てわかる事(⇒ フィジカルアセスメント)があるので、それについて話した後、具体的な方法について話していきます
中枢気道に痰がある場合
【フィジカルアセスメント】
・パルスオキシメーターで計測した際にSpo2低下や、呼吸数(RR)の増加を認める事が多い
・患者さん自身はどう感じているかというと、もうちょっとで痰が出そうな違和感や息苦しさを訴えられる事が多い
・ゴロゴロ音がする様な貯痰留音を聴取
・聴診時に低音性連続性ラ音(ローンクス)を聴取、姿勢を変えてもローンクスが聴こえる(舌根沈下などの影響はなさそう)
・前胸部を触っているとブルブルと痰の振動(=ラトリング:rattling)を感じる
【ハッフィングの方法】
深く息を吸い込んだ後、可能な限り早く 短く 「ハッ、ハッ」と 1~2回 行う
できるかぎり呼気流速を増やす事を意識する、という事ですね
何回も続けるとしんどいので、途中で深呼吸や普通の呼吸(調整呼吸)を挟みます
この方法をACBT(エーシービーティ:Active Cycle breathing Technic)といいます
末梢気道に痰がある場合
痰をまず末梢気道から中枢気道に集めてから、先ほどの「中枢気道に痰のある場合」の方法で出します
【フィジカルアセスメント】
・中枢気道に痰が貯まっている場合と比べて、患者さん自身も呼吸に違和感を感じにくかったり他覚的にもわかりにくい場合が多い
・聴診では水泡音(コースクラックス)や高音声連続性ラ音(ウィーズ)が聴取されたり、肺胞呼吸音の減弱がみられる
・臨床的にはハッフィングをしてもらったり、身体を動かしてもらう(換気量増加 + 体位ドレナージ効果 ※このあたりの詳しい事はコチラの記事に書いています)と徐々にコースクラックスやウィーズからロークスに音が変わる事がある
【ハッフィングの方法】
① 中程度の吸気の後、軽く口を開いて、ゆっくり長く「は~~」と 胸郭 と 腹筋 を使って息を絞り出す
呼気の最後はお腹に力を入れて息を絞り出す(これは腹式呼吸ではなく腹圧呼吸といいます)
そうしているともし痰が末梢気道にあった場合には、徐々に中枢気道に上がってきてゴロゴロとした貯痰留音などが聞こえ始める
そうしたら中枢気道に痰が上がって来たんだなぁと考え、中枢気道に痰がある場合の先程のハッフィング方法を行う
② 深く息を吸い込んだ後、可能な限り早く 短く 「ハッ、ハッ」 と1~2回 行って痰を出す
また②で例え痰を口まで自己喀出できなくても吸引する事が可能な主気管支レベルまで痰を集める事ができたら吸引回数を減らせる事なども期待できるんじゃないでしょうか?
なので指示が入る方にはこの「末梢気道に痰がある場合」の内容を吸引前にして頂いています
※なかなかこういった口頭指示が入らない様な方の排痰援助についてはコチラの記事を参照 ⇒ 楽な肺理学療法②( 訪問看護師さん対象: 吸引)
※臨床では、末梢気道に痰がある場合には、聴診によって痰が溜まっている場所(肺区域)をある程度特定し排痰肢位をとってもらってから「ハッフィング」をしてもらったり「呼吸介助」をする事が多いです
ハッフィングで痰が出やすくなるしくみ (等圧点理論)
ではなぜこのような方法で痰が出やすくなるのでしょうか?
そのしくみは等圧点理論で説明されます
強制呼出(以下huffing:ハフィング)をすると、気道に気道内圧 と気道にかかる側圧とが等しくなる点(等圧点:equal pressure point)が生まれます
この等圧点より口側に部分的に気道が強く狭窄する部位が生じます
そこはchoking point (チョーキング ポイント)と呼ばれているのですが、気流速度はそこで最大となりこの強い気流が気道内にある痰を吹き飛ばす作用を持ちます
このchoking pointは 高肺気量※では中枢にあり、低肺気量※では末梢に移動すると言われています
ここで大事なのはchoking pointが移動するという事なんですね
肺気量によってchoking point が中枢から末梢へ以下の図の様に動いていると考えられます
図だと理解しやすいと思います
高肺気量、低肺気量とは何か?
先ほど等圧点理論の所で「choking pointは 高肺気量では中枢にあり、低肺気量では末梢に移動する」と書きました
そこで書いた高肺気量、低肺気量 とは何なのか?と疑問に思われる方もいると思います
結論から言えば高肺気量も低肺気量も相対的なもので、きちんとした定義の記載は見当たりません
知っている方がいたら教えて (>人<;)
文献には「25%VCなどの低肺気量」 とよく記載されているので、25%VCが低肺気量なのは確かなようです
この25%VCとは何ぞや?という事なのですが、
肺の検査でトイレットペーパーの芯のようなものをくわえて思いっきり息を吐く検査(努力性肺活量検査)があります
こんなの
チェンジ喘息様より引用
これで検査で縦軸に息を吐くスピード(気速)、横軸に息を吐いた量(肺気量)をグラフにすると、以下の曲線(フローボリューム曲線)が得られます
リウマチアレルギー情報センター様より引用
この曲線で全ての息を吐き切った量(FVC)を4等分した際に、25%VCは図の25%にあたる部分のようです
要するにハッフィングで深く息を吸い込んだ後、可能な限り早く 短く「 ハッハッ」と1~2回 行うのがピークフローに近い高肺気量であり、中程度の吸気の後、軽く口を開いてゆっくり長く「は~~」と 胸郭と腹筋を使って息を絞り出すのが25%VCに近い低肺気量ではないかと思います
まとめ
どうでしょう、何となくハッフィングについて分りましたでしょうか?
以前に吸引回数を減らすために、「患者さんを動かす(動いてもらう)ことが大切で、それも肺理学療法ですよ」という内容の記事を書きました
今回は身体を動かさなくても痰を出しやすくする方法なので、前回の記事の補完的なものになるかと思います
ただこのハッフィングも患者さんによっては痰を出しにくかったり、別の方法の方がより痰を出しやすかったり、あるいは医療従事者がそばにいる状態で排痰をした方がいい場合(窒息のリスク)などもあります
そのためこの記事を読んでさっそくされようと思われる方は、主治医あるいは関わっている医療従事者にまず相談される事をおススメします
誰かの何かの参考になればうれしく思います
がんばっていきまっしょい!
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①ゴロゴロ(貯痰留音)するからといって反射的に吸引していないですか?
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聴診
①前から見た時の、上・中・下葉の見つけ方
②横と後ろから見た時の、上・中・下葉の見つけ方
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④なぜ肺から音が聞こえるかわかりますか?
⑤正常な音と、そうではない音との聞き分け方
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・酸塩基平衡の見方
・側副気道・排痰機序・等圧点理論
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・COPDは糖尿病と同じ?
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・ABCDEバンドル と維持期
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・リスク管理、スターリングの法則、拡散障害
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・「オーラルフレイル」の岩佐先生の講義があったので行ってみた!
・呼吸の勉強会(RTXのケーススタデイ)に行ってきた!
・第11回愛媛県呼吸不全研究会に行ってきた!(Mostgraph)
呼吸療法認定士 受験記 (申し込み ~合格まで )
・(5年後)新しい3学会合同呼吸療法認定士の認定書が届いたよ
・(5年後)呼吸療法認定士の更新申請をしてみた!
・(4年後)認定更新手続きの案内が届く
・(翌年)2月23日3学会合同呼吸療法認定士の認定証が届く
・12月31日呼吸療法認定士試験の勉強方法
・12月24日3学会合同呼吸療法認定士 合格しました(≧∀≦)
・12月22日あと数日で、呼吸療法認定士の合格発表
・11月18日呼吸療法士認定試験やっと終わりましたヽ(゚∀゚)ノ
・11月17日試験会場まで下見に行ったら迷子に!
・11月17日今から受験しに東京へ出発
・11月6日ハウ マッチ?(呼吸療法認定士受験必要費用)
・11月2日先ほど受験票が届きました(゚∀゚)
・9月22日11月の受験旅行準備(飛行機とホテルの手配)
・9月15日しばらく放置してましたが(勉強の進捗状況など)
・8月27日これから認定講習会を受講される方はICレコーダーを持っていくべし!
・8月26日講習会を終えて、今治へ帰ります
・8月26日昨日は講習日初日(講習会参加時の注意点など)
・8月24日今から講習会を受けに東京へ出発
・8月24日講習会のある東京でのスケージュールを立ててみる
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・4月23日呼吸療法認定士の講習会に参加するためホテルを予約
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(2021/3/22)第5回 臨床における呼吸ケア・リハセミナーに参加***②
(2021/6/1)認定理学療法士(呼吸)症例報告提出***③
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(2018/8/2)2018年度心臓リハビリテーション指導士試験を受けてみて(講習会・試験会場)***㉑
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(2019/2/19)心リハ学会の全国指導士名簿に記載される***㉔
(2019/9/2)2019年度の心臓リハテーション指導士試験を受けられた方の感想***㉕
(2021/8/12)今年(2021年)心臓リハ指導士試験を受けられる方とのやり取り***㉖
(2021/9/13)2021年度心リハ指導士試験合格者の感想(来年以降の受験者に向けて)***㉗
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(2018/4/17 )ついでに認定理学療法士(循環)も目指してみる***①
(2018/4/29) 認定必須講習会(循環)に向けて準備***②
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(2018/5/19) 広島までポイントをゲットしにいく(非外傷製慢性下肢創傷形成予防研修会)***④
(2018/9/10) 必須研修会(循環)と 指定研修会受講 と ポイント申請***⑤
(2018/10/15)理学療法士協会からポイント反映のお知らせが届く***⑥
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