聴診の話④(肺区域・ランドマーク・目印)

前回は自分が聴診している部位が肺区域のS1~10のどこにあたるか、その見つけ方について話をさせてもらいました
痰のあるS1~S10がわければ、ブロンコ体操でどの体位排痰法を使えばよいか分かった訳ですね
でも痰がある時の「音」というのがわからないと、どうしようもありません
今回は痰のある時の音について説明していきます
今回は2番目の、聴診した時の「音」について説明していきます
これで痰の有無を判断します
音についての説明
ではそもそもなぜ肺から音が生じるか、について考えてみましょう
分かりやすい例えが蛇口の水です
蛇口をゆっくり開くと水は勢いが弱くちょろちょろと流れますが音はあまりしません
しかし蛇口を思いっきり開くと水の勢いはすごくてブシャーと結構な音出してして流れます
その際の水の流れを模式的に表すと上のスライドの図の様に、ちょろちょろ流れる時(= 水の勢いの弱い時)は層流という流れになっており、ブッシャーと流れる時(=水の勢いの強い時)は乱流や渦流となっています
肺もこの水の流れと同じで、空気の勢いが弱い時には流れは層流になって音はあまりせず、空気の勢いが強い時には乱流や渦流になって音が生じるわけなんです
つまり
「勢い」が「音の大きさ」に影響している、という事なんですね
喘息などで気管支の回りの平滑筋が攣縮して気管支が細くなったりすると、空気の勢いが増えるので音が出やすくなるのも想像しやすいですね
また気道に痰などが溜まっていたりすいると、そこで空気の流れが乱されて、乱流や渦流が出やすくなって音が出るのは想像しやすいんじゃないでしょうか?
そんなんで音が出るんですね
ここで間違いやすいのは、肺胞や呼吸細気管支など肺の1番深い所からは音が生じていない、という事です
この肺胞や呼吸細気管支あたりまでくると空気の勢いというのは殆どない状態※1なので、渦流も乱流も生じないためです
このあたりは層流および拡散※2と呼ばれる現象で空気が移動していきます
気管の内径は親指ぐらいしかないのに、その空気の行き着く先の肺胞の総表面積はテニスコート半面もあるんですよ
なので気管の中を流れている空気の勢いはすごいという事は直感的に理解しやすいのではないでしょうか?
また行く着く先の肺胞のあたりに流れている空気の勢いはとっても弱い事も
※1 肺胞や呼吸細気管支レベルでは空気の流れがほとんどない理由 1回換気量500mlに対して、肺胞の全表面積はテニスコート半面といわれています。つまりこの500mlのペットボトルの水をテニスコートの半面に撒く(まく)ようなものです。どうやって撒いたら全部カバーできますか?勢いよく撒いちゃったら全部撒けないですね。ゆっくりちょっとずつ撒かないと。ちょうど大動脈に対する毛細血管の様なものです。動脈の根本の大動脈はものすごく血液の流れは早いですが、末梢にある毛細血管ではカバーしている面積が非常に大きいので血流はものすごく遅くなります。それと似たようなものと想像して頂けたら分かりやすいかもしれません。 |
※2 拡散 濃度が一定ではない状態にある物質は、時間とともに混ざり合って濃度がある一定の状態になっていく。この物質が混ざり合って濃度が一定になることをいう。 |
人によっては肺胞が膨らむ時に、肺胞から音が出ているという方もいますが、正常な肺胞はもともとある程度膨らんでいます
以前「楽な肺理学療法」の中でも説明させてもらった機能的残気量( FRC )というもので膨らんでいるんですね
肺胞が萎(しぼ)んでペシャンコになっていたら、それは病的な状態で無気肺です
呼吸の度に肺胞がぺしゃんこになって膨らんでを繰り返してしまったら、摩擦で肺胞に炎症が起きてしまいますよ
人工呼吸器などの強制呼吸ではそんな事があるので問題になったりしてますね
でも肺胞呼吸音って音の分類の中にあるんだしそこから音が出ているんじゃないか!というツッコミが入りそうですが、 肺胞呼吸音が聞こえるとされる所で聞こえている音というのは、気管や主要な気管支付近から生じた音が肺の中を通っていくうちに色々修飾されたものが聞こえているということなんです
それをちょっと図でみるとこんな感じ
それならなぜ、音の元となる気管支付近の音は呼気も吸気もよく聞こえるのに、肺胞呼吸音は吸気しかよく聞こえないの?と疑問に思われる方がいるかと思いますが、呼気よりも吸気の方が気管分岐部で乱流が生じやすいためと文献(ナースのためのCDによる呼吸音聴診トレーニングP26~28)には記載されています
なので通常の肺胞呼吸音がどんな音がわかっていて、もしその音に異常があれば、その音が伝わってくる所(肺実質)に何かイベントがあると言う事がわかる訳なんですね
例えば、音の発生源である主要な気管支付近から実際に聴診をしている所までの間で、通常では存在しない水や血や空気が溜まっていたり(胸水,血胸,気胸)、あるいは肺気腫などで肺実質の密度が低下していたりすると、音の伝達がしにくくなりるため音が弱く聞こえたりします
あるいは逆に肺炎などで肺実質の水分含有量が増えると音の伝わりが良くなるため、通常では聞こえない音の発生源である主要な気管支付近で聞こえる様な音がよく聞こえたりする事があるんですね
音の分類
これからそれぞれの音の説明をしていくのですが、音の分類は以下の様になります
結構ややこしそうですね
でも痰に関係しそうな事を中心に話をしていきますのでそんなに難しくないですよ
肺から聞こえる音を肺音というのですが、その音は健康な人の肺で聞こえる呼吸音と、病変のある肺で聞こえる副雑音とのまず別れます
なので痰がある時の音というのは副雑音になるのですが、その異常な音を異常と分かるためにも正常な音(呼吸音)が分らなければ異常と分かることは難しいので、まずは呼吸音について説明していきます
正常な音には、肺胞呼吸音、気管支肺胞呼吸音、気管呼吸音があるのですが、それぞれについて次回から説明していきます
続きはコチラ ⇒ 正常呼吸音(肺胞呼吸音、気管支肺胞呼吸音、気管呼吸音)について
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一方、下の本はDr向けなのかやや難解でしたが、物理的な説明も詳しくされていました。
ナレーションもダンデイな男性の声なので好みによると思います。
コメディカルは”ナースのためのCDによる呼吸音聴診トレーニング “の本で十分ではないかと僕は思います。
引用・参考文献
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