腹式呼吸は指導すべき?(呼吸リハビリテーション④)
前回は「呼吸の仕方を工夫する」という事で、口すぼめ呼吸を詳しく説明しました
今回は臨床で口すぼめ呼吸とセットで指導されることの多い腹式呼吸について説明していきます
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腹式呼吸
腹式呼吸の仕方は上のスライドの様に、息を吸う時には鼻から吸い込んでお腹を膨らませます
息を吐く時には、先ほど説明した「口すぼめ呼吸」で溜息をつく様にゆっくり吐き出します
息を吐き出すとそれにつられる様な形でお腹が凹みます
注意しないといけないのは腹式呼吸では決して腹圧をかけない(お腹に力を入れない)のがポイントです
((注意))
換気障害が強い方ほど呼気の最後に腹圧をかけ、空気を絞り出すようにして吐く方がいます。確かにお腹は使っていますがそれは腹式呼吸ではありません。腹圧呼吸といいます。 |
ここでスライドの題に「できたら腹式呼吸も覚えましょう!」と書いていますが、なぜ「できたら」なのわかりますか?
腹式呼吸は呼吸法の定番みたいに口すぼめ呼吸とセットで訓練されていますが、臨床では難しいため出来ない方が結構いらっしゃるからです
なぜ難しいのか?
その理由を説明していきます
まずは腹式呼吸を説明
こちらが引用している元のYou tube動画です
この動画みてもらうと非常によくわかるのですが、息を吸う時というのは横隔膜という筋肉が下に押し下がる事で胸腔内が陰圧となり空気が入ってきます
また横隔膜が下に下る際には、内臓を押して下がるため行き場を失った内臓は、お腹にポッコリ出てしまう訳です
一方、息を吐く時というのは収縮した横隔膜が緩むことで、胸腔内圧が上がり空気が出ていきます
内臓は元の位置に戻るのでお腹はポッコリした状態から元に戻ります
要するに腹式呼吸とは横隔膜の運動によって起こる訳です
なので腹式呼吸は横隔膜呼吸とも呼ばれます
それを模式化すると
では「なぜ腹式呼吸もできたらした方がいいのか?」という事なのですが、以前の「楽な肺理学療法」の時にも説明したのですが、
上記の様に、横隔膜は呼吸をするにはとっても効率のいい筋肉だからなんですね
ではなぜ、効率のよい横隔膜を使う必要があるのかといいますとCOPDの患者さんは呼吸をするだけでも結構な量の酸素を使っているためです
健常者であれば、通常呼吸に使う酸素は全体の内の5%程度なんですが、COPDの患者さんは35~40%も呼吸につかっちゃっている訳なんですね
酸素に余裕がなくキチキチの状態なんです
なのでちょっと動いただけでも息苦しいか、わかる気がしませんか?
運動すると動作筋に酸素が多く使われてしまいますから、酸素が不足してしまいますね
ではここから、なぜ「できたら腹式呼吸をおぼえましょう!」といった理由を詳しく説明していきます
それはCOPDの重症度の高い人ほど腹式呼吸が困難な人が多い、からです
その理由はコチラのスライドを見て頂けると分かりやすいと思います
こちらの写真は健常者とCOPD患者さんの胸部X線写真です。
両方とも最終呼気位で撮ったものです
この違いは分かりますか?
最終呼気位なので、この状態から横隔膜が収縮して、下に下がる吸気となります
右側のCOPDの方はもうこれ以上、下に下りそうになさそうに見えませんか?
腹式呼吸指導の注意点
COPDが重度の方の中には、呼気の最後でも横隔膜がすで下にさがりきっている状態の方がいます
この様な方に腹式呼吸をいくら指導しても、横隔膜が波打つだけで逆にしんどい(息苦しい)です
※この様なCOPDの重度の方は、呼気時に腹圧をかけて絞りだすようにして呼吸をされています この様な呼吸法を腹圧呼吸(腹筋を使う呼吸)といい、腹式呼吸(横隔膜を使う呼吸)とは別物です 呼吸をするのにはとってもエネルギー効率は悪いですが、そんな事いってられないんですね
またこのような患者さんの中には、吸気時に下部肋間が凹むHoover(フーバー)徴候が観られる事があります この徴候は横隔膜が下まで下りきっている(=横隔膜平定化)サインでもあるので見逃さないようにしましょう!
また似たようなものに奇異(きい)呼吸というものがあります 日本救急医学会の定義では「胸部と腹部の動きが同調していないこと」を表す呼吸と言われています これはそもそも横隔膜の筋力低下で起きる呼吸なのですが、腹圧呼吸が観られるような患者さんというのは 横隔膜が下がりきって横隔膜の筋力発揮が弱くなっている状態なので、腹圧呼吸に奇異呼吸が合併する事はありうると思われます |
では、どうやって腹式呼吸を指導すべきか否かを評価するにはどうしたらいいのか?という事なのですが、横隔膜が実際によく動いているかどうかを観て、指導すべきかどうかを判断します
ここでも「口すぼめ呼吸」の指導と同様、医療従事者の出番です
横隔膜はもちろん目では見えないので、「打診」で横隔膜がどの程度動くのかを観ていきます
これは千住先生に教えてもらった方法なのですが、深吸気時に2横指程度横隔膜が移動できた場合には、腹式呼吸の指導も考慮するそうです
つまり呼吸法の指導だからといって反射的に(安易に)「腹式呼吸」を指導すべきではない、という事です
つづきはコチラ⇒ 横隔膜の同定には打診!
こちらも読まれると更にブラッシュアップできますよ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんの息切れを軽くするために
①COPDの患者さんが医療従事者に望む事は?
②「禁煙」しないとリハビリしても意味はない!
③「薬物療法」 と「酸素療法」に加えて「リハビリ」をする効果は?
④腹式呼吸は指導すべき?
⑤横隔膜の同定には打診!
⑥息苦しい動作をする時のコツを知っていますか?
⑦息苦しい動作の評価の仕方(医療従事者向け)
⑧COPDの患者さんには食事(栄養療法)が大切な理由
⑨なぜCOPDの患者さんは筋トレをしないといけないのか?
⑩「筋持久力」と「全身持久力」との違いはわかりますか?
呼吸理学療法手技
・ポストリフトって知ってますか?
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・呼吸介助についてまとめてみたよ!
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呼吸関係その他
・呼吸療法認定士試験の勉強方法
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・酸塩基平衡の見方
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・「オーラルフレイル」の岩佐先生の講義があったので行ってみた!
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・第11回愛媛県呼吸不全研究会に行ってきた!(Mostgraph)
呼吸療法認定士 受験記 (申し込み ~合格まで )
・(5年後)新しい3学会合同呼吸療法認定士の認定書が届いたよ
・(5年後)呼吸療法認定士の更新申請をしてみた!
・(4年後)認定更新手続きの案内が届く
・(翌年)2月23日3学会合同呼吸療法認定士の認定証が届く
・12月31日呼吸療法認定士試験の勉強方法
・12月24日3学会合同呼吸療法認定士 合格しました(≧∀≦)
・12月22日あと数日で、呼吸療法認定士の合格発表
・11月18日呼吸療法士認定試験やっと終わりましたヽ(゚∀゚)ノ
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