COPDの患者さんには食事が大切な理由(呼吸リハビリテーション⑧)

前回の話 では息苦しさを軽減するために、②の 「息苦しい動作をする時のコツを知る」 について話をさせてもらいました
今回から息苦しさを軽減するために、③の「体力をつける」について話をしていこうと思います
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息苦しさを軽減するために体力をつける
では具体的に「体力をつける」にはどうしたらいいのか? について以下のスライドの1~3 になります
1番目は、上手に食事をとりましょう!です
「体力をつける」といえは皆さんは「運動」のことが頭に浮かびやすいと思いますが、なぜ1番に「運動」ではなく「食事」の事が書いてあるのかについて説明していきます
それはいくら運動をしても十分な栄養がなければ体力はつかないし、下手をすれば運動をする事で体力を落としてしまうことになるためです
せっかく運動をしても体力を落としてよけいに息苦しくなるようでは意味がありません
本当に骨折り損ですね
なぜ食事(栄養療法)が大切なのか主な2つ理由はこちら
①筋力をつけるための筋トレをしているのに、逆に筋力を落としてしまう場合や
②体重が増加すると、COPDの患者さんの死亡率は低下する という研究データがあるからなんです
※ ただ最近の研究では、体重でも脂肪を除いた除脂肪体重(LBM)なら体重が増えれば増えるほどいいということが言えますが、特に(皮下脂肪ではなく)内臓脂肪の多いCOPDの方は体重が多いからといいという訳ではない、というデータが発表されています |
⇒ 詳しくはコチラの記事を参照ください
COPDは糖尿病と同じ?(呼吸の講習会復習④) – ちんねんの徒然なる日記
では食事が大切な理由を1つずつ詳しく説明していきます
食事(栄養療法)が大切な理由 その①
まず運動療法により関係のある①つ目から
前回の話でCOPDの患者さんの安静時の酸素消費は健常な方に比べ多いという話をしました
安静時の酸素消費が多いと言うことは、安静時のエネルギー消費も多い事も示しています
なぜエネルギー消費が多いかといいますと、COPDのせいで息苦しいため、呼吸をするのにより多くのエネルギーを必要とする事やCOPD自体が全身炎症性の疾患であるため炎症により代謝が亢進している事が原因です
そういった厳しい状態でありながら、COPDが重度になってくると食事をとる動作自体が息苦しくなったり、食べるために座っている事がしんどくなったりして食事量が減り、体重が減少する方が多く観られます
実際COPD患者の約7割に体重減少が認められているそうです
そういうエネルギーが不足している状態で力をつける様な運動(=筋力増強運動:レジスタンストレーニング)をしてしまうと、エネルギー源として筋肉の蛋白(たんぱく)質が使われる様になり(= 蛋白異化あるいは糖新生)、筋力が落ち更に息苦しくなるという悪循環を引き起こしてしまいます
それが①筋力をつけるための筋トレをしているのに、逆に筋力を落としてしまう場合があるという事なんですね
COPDの患者さんに対する栄養指導
COPDの患者さんに対する栄養指導としては、一般的に「高カロリー・高タンパクな食品を主にして、十分なエネルギーを摂るように」 と 結構曖昧に言われています
以下のP27(COPDの診断と治療のためのガイドライン 第2版)にも以下のように栄養に関する記載があります
COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン(第3版)【改訂中】|一般社団法人日本呼吸器学会
一般的に、体重増加を目的とする場合、非蛋白エネルギーとしてREE(安静時エネルギー消費量)の1.5倍以上が必要である。
このREEはHarris-Benedict(ハリス-ベネディクト)の式からBEE(基礎エネルギー消費量)を求め、それに活動係数とストレス係数(SI)を掛ける事で求められますが、このSIには科学的な裏付けがないとも言われています
また、もともとこの式は欧米人を対象にして作られたものであるため日本人には高めにでる可能性があります
【参考】
●BEEの算出方法
男性:66.47+13.75✕体重(kg)+身長(cm)-6.76×年齢(年)
女性:655.1+9.567×体重(kg)+ 1.8×身長(cm)-4.68×年齢(年)
●活動係数
ベッド上安静:1.2
ベッド外活動:1.3
●ストレス係数
術後(合併症なし)1.00
癌:1.10~1.30
多臓器不全1.20~1.40
そんな事もあるのか「栄養とリハビリテーション」との関係に詳しい若林先生はその著書(※6)の中で「具体的な数値基準は今の所ない」と記載されています
でもCOPDの患者さんは具体的にどのくらいエネルギーを摂ったらいいのか目安が欲しい所ですね
そこで若林先生はその著書(※6)の中で、摂取する食事の量(エネルギー量)を目安にするのではなく、食事をとった結果を目安にしてはどうかと書かれています
それは 「BMI(kg/m2)」 と 「動的体重減少(6ヶ月に体重の10%,1ヶ月に体重の5%の体重減少)」です
これを目安に「運動の強度」を決めていってはどうかと提案されています
この表のようにBMIが22未満であり動的体重減少が観られれば、基本的に筋力維持目的に低負荷な運動をするべきと言われています
つまり、それ以外は高負荷な運動(レジスタンストレーニング)も可能という事です
参照している若林先生の著書(※6)はこちら
BMIについてはこちら
【みんなの知識 ちょっと便利帳】BMI(体格指数)の測定/判定 – ビーエムアイ指数 – 肥満対策/ダイエットのための肥満度チェック – BMI計算
食事(栄養療法)が大切な理由 その②
COPD患者さんの体重と死亡率の関係についての研究は結構されていて、以上の様なことが分かっています
COPDの患者さんで、BMIが25未満つまり、ちょっと太っている方より痩せている人はみんな、体重が増えれば増えるほど死亡率が減るという研究結果が出ています
そのため体重を直接的に増やす食事はとっても大切という訳なんですね
※ 【2016追記】 COPD末期の患者さんに関しては、積極的な栄養療法が適さない時期の様です
この事に関して詳しくコチラの記事に書いていますので参照下さい
COPDの患者さんにも積極的な栄養療法が適さない時期がある!(不可逆的悪液質) – ちんねんの徒然なる日記
どの様に食事をとっていったらいいのか?
ちょっと運動療法から話が離れていっているのが気になりますがご容赦下さい(・_・;)
これから紹介するスライドは僕が学生だった頃、呼吸リハビリテーションが行われている病院で、退院するCOPD患者さん向けに配られるパンフレット※8から抜粋したものです
COPDの患者さんに塩分?と思われるかもしれませんが、肺の調子の悪い方は、心臓が頑張って補っている場合が多く観られます
つまり心臓にとっていい事は肺にとってもいいという事です
そのため塩分が多すぎると心臓に対する負担が増えるので少な目にしましょうという事だと思われます
「日本高血圧学会のガイドライン」では6g未満、「日本人の食事摂取基準」でも8g未満と書かれているのですが、それにくらべるとかなり緩めになっています
ひょっとしたら塩っけがないと食が進まない患者さんに対する配慮なのかもしれません
また1回に食べれる量の少ない方は、朝食、昼食、夕食時のみでなく、その間にちょっとずつ食べること(= 分食)で、食事量を確保する事が大事といわれています
でも食事量が多くでもエネルギー量が少なくては意味がないで、少なくても高エネルギーな食べ物(脂質が多め)がオススメです
ミニ知識になるのですが、食事が温かいと満腹になりやすいと言われているので、どうしてもすぐに満腹感を得やすい方は冷たい食事にチャレンジしてみるのも手です
ガスが貯まるような食べ物もお腹を膨らますので、息苦しさを誘発しやすくなるので注意が必要です
では具体的にどんな食品を食べたらいいのかという事なのですが
上のスライドの様に、タンパク質が多く含まれる肉類や卵、牛乳などの乳製品が勧められます。
特にタンパク質の中でも筋肉の分解を抑制し、筋肉の合成を促進する分岐鎖アミノ酸(BCAA)を多く含む食品がオススメです
こちらのHPにBCAAの多い食品が挙げられています
【参考資料】食品の選び方|ぜん息などの情報館|大気環境・ぜん息などの情報館|独立行政法人環境再生保全機構
ちなみに大きい筋肉を見せる事が職業のボディビルダーさん達も、筋肉が痩せては仕事にならん、と言う事でBCAAを含む食品をよく摂られています
食品の中でも特にオススメなのが、このスライドに挙げました青魚です
これらはBCAAの多いタンパク質である上に、n-3系多価不飽和脂肪酸(DHA・EPAなど)も多く含むからです
COPD患者への臨床研究で、この脂肪酸を用いる事でサイトカイン、免疫能、運動能、LBM(除脂肪体重)についてプラスの効果があったとの報告もみられています
ちなみに「ためしてガッテン」で紹介され、全国で品切れになったあの「エゴマ油」もn-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む食品ですね
あと食事の際の注意点として
また、栄養補給できる缶や紙パックに入った飲み物(栄養補助食品)をDrが処方してくれる事があるので、食事量の少ない方はかかりつけ医にまず相談する事をオススメします
保険が効く場合があるのでお安く購入できますよ
食事量(摂取エネルギー量)がどうしても少ないので、これでカバーされている方も多いです
食事のために座るもしんどいけど、これだったら短時間で座って飲めると言う事で摂られている患者さんもいます
ぼくも一度飲んだ事があるのですが、めちゃめちゃ甘い飲み物でした
かなりの甘党でないと厳しいかもしれませんが、バニラ味やバナナ、コーヒー、ストロベーリー味などバリエーションも多く、飲み飽きにくくする工夫がされています
ちなみにこちらが市販されている栄養剤
最近ではエルルギー量の補助だけではなく脂質強化(高カロリー・CO2排出抑制)したものだったり、タンパク質強化(筋合成促進)したものが販売される様になってきています
(例) 脂質強化・・・プルモケアEx(250ml 350kcal 脂質55%)、ライフロンQL(125ml 200kcal 脂質44%)
蛋白強化・・・メイン(200ml 200kcal タンパク質10g)、メディエフアミノプラス(125ml 210kcal タンパク質10g)、ペムパルアクティブ(125ml 200kcal タンパク質10g)
今回は息切れを軽減するために「体力をつける」という事で、1の「上手に食事を取りましょう!」について説明させていただきました
次回から2の「手足の筋力をつけましょう!」と言う事で運動療法について話していきたいと思います
最後までみていただき有難うございました。
つづきはコチラ⇒ なぜCOPDの患者さんは筋トレしないといけないのか?
こちらも読まれると更にブラッシュアップできますよ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんの息切れを軽くするために
①COPDの患者さんが医療従事者に望む事は?
②「禁煙」しないとリハビリしても意味はない!
③「薬物療法」 と「酸素療法」に加えて「リハビリ」をする効果は?
④腹式呼吸は指導すべき?
⑤横隔膜の同定には打診!
⑥息苦しい動作をする時のコツを知っていますか?
⑦息苦しい動作の評価の仕方(医療従事者向け)
⑧COPDの患者さんには食事(栄養療法)が大切な理由
⑨なぜCOPDの患者さんは筋トレをしないといけないのか?
⑩「筋持久力」と「全身持久力」との違いはわかりますか?
呼吸理学療法手技
・ポストリフトって知ってますか?
・「呼吸介助」 と 「スクイージング」の違いについてサクッとまとめてみた
・呼吸介助についてまとめてみたよ!
・息苦しいから呼吸介助?(息切れがあっても呼吸介助の意味がない場合)
・自分で痰を出しやすくする方法(ハッフィング)についてまとめてみた
吸引回数を減らすために
①ゴロゴロ(貯痰留音)するからといって反射的に吸引していないですか?
②動く(動かす)と吸引回数が減る理由はわかりますか?
聴診
①前から見た時の、上・中・下葉の見つけ方
②横と後ろから見た時の、上・中・下葉の見つけ方
③肺区域(S1~S10)の場所の見つけ方
④なぜ肺から音が聞こえるかわかりますか?
⑤正常な音と、そうではない音との聞き分け方
呼吸関係その他
・呼吸療法認定士試験の勉強方法
・「スクイージング」の宮川先生達の講義があったので行ってきた!
・酸塩基平衡の見方
・側副気道・排痰機序・等圧点理論
・換気血流比不均等、低換気の原因、シクソトピーコンディショニング
・COPDは糖尿病と同じ?
・貯筋しましょう!(侵襲時の代謝の特徴)
・「運動」は最良の薬!
・ABCDEバンドル と維持期
・COPDの患者さんにも積極的な栄養療法が適さない時期がある!(不可逆的悪液質)
・リスク管理、スターリングの法則、拡散障害
・気道粘膜除去装置(パルサー)説明会
・「オーラルフレイル」の岩佐先生の講義があったので行ってみた!
・呼吸の勉強会(RTXのケーススタデイ)に行ってきた!
・第11回愛媛県呼吸不全研究会に行ってきた!(Mostgraph)
呼吸療法認定士 受験記 (申し込み ~合格まで )
・(5年後)新しい3学会合同呼吸療法認定士の認定書が届いたよ
・(5年後)呼吸療法認定士の更新申請をしてみた!
・(4年後)認定更新手続きの案内が届く
・(翌年)2月23日3学会合同呼吸療法認定士の認定証が届く
・12月31日呼吸療法認定士試験の勉強方法
・12月24日3学会合同呼吸療法認定士 合格しました(≧∀≦)
・12月22日あと数日で、呼吸療法認定士の合格発表
・11月18日呼吸療法士認定試験やっと終わりましたヽ(゚∀゚)ノ
・11月17日試験会場まで下見に行ったら迷子に!
・11月17日今から受験しに東京へ出発
・11月6日ハウ マッチ?(呼吸療法認定士受験必要費用)
・11月2日先ほど受験票が届きました(゚∀゚)
・9月22日11月の受験旅行準備(飛行機とホテルの手配)
・9月15日しばらく放置してましたが(勉強の進捗状況など)
・8月27日これから認定講習会を受講される方はICレコーダーを持っていくべし!
・8月26日講習会を終えて、今治へ帰ります
・8月26日昨日は講習日初日(講習会参加時の注意点など)
・8月24日今から講習会を受けに東京へ出発
・8月24日講習会のある東京でのスケージュールを立ててみる
・6月2日呼吸療法認定士講習会に参加できそう
・4月23日呼吸療法認定士の講習会に参加するためホテルを予約
・4月10日特定記録郵便で申し込み!
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