「薬」 と「酸素」に加えて「リハビリ」をする意味は?・ 口すぼめ呼吸の指導方法(呼吸リハビリテーション③)
前回の記事では、COPDの治療方法として「禁煙」について述べましたが今回は、それ以外の「薬物療法」「呼吸リハビリテーション」について話していきます
薬物療法について
空気の通り道を広げる作用のある薬である気管支拡張薬が薬物療法の中心
最近は湿布の様に皮膚に貼り、そこから吸収させるタイプの薬が増えている印象です
痰があると空気の通りが悪くなるので、それを出しやすくする様な喀痰調整剤などもあります
ただ痰が出やすくなるのはいいのですが、そのために喀痰回数や吸引回数が増えて、患者さんや家族の疲労につながるケースもあるので、訪問看護師さんはよくDrと相談して調整されています
薬物療法に関して、4年ぶりに2013年に改訂された新ガイドラインでの変更点は、「中等症以上のCOPD患者に対しては、LAMA(ラーマ)とLABA(ラーバ)が同じレベルで推奨される」様になりました
以前はLAMAの方が優れていたそうなのですが、その後に登場した新薬のLABAが同等の効果を示すことがわかって変更となったようです
また前回の改訂では増悪した時には吸入ステロイド(ICS)の追加が新しく記載されたのですが、今回新たに「喀痰調整薬」も付け加えられました
COPD診断と治療のためのガイドライン第5版2018 日本呼吸器学会 より引用(赤枠加筆)
薬とリハビリの関係
COPDに対する治療としては「禁煙」と「薬剤療法」だけしていたらいいじゃん、と思われる方もいるかもしれません。
リハビリってしんどいし…
息苦しいのにリハビリしたら余計に息苦しくなるやん…って思われるかもしれません
そういう方には上の図を見て頂きたい
この図の横軸は治療期間、縦軸は運動の持続時間です
COPDが重度になればなるほど、息苦しくて運動の持続時間が短くなります
つまり縦軸の上にいけば行くほど、息苦しさが軽くなる(治療効果が出ている)と言う事を表しています
1番下の実線が「呼吸リハビリテーション」のみをした場合、
その上の実線が「呼吸リハビリテーションに加えてCOPDに使われる代表的な薬(抗コリン剤)を併用」した場合です
1番下の呼吸リハビリテーションだけのグループでもかなりの治療効果が出ていますが (← 刮目せよ!)
それに加えて抗コリン剤を内服したグループは更によい治療効果が出ています
つまり、このスライドにも書いていますが、薬とリハビリは別々の機序で息切れを軽減するため、それぞれに上乗せ効果がある、という事なんです
さらにリハビリをプッシュします!
先ほど紹介した図とほとんど同じなのですが、このスライドの図は縦軸が息苦しさの程度を示す修正Borgスケールという数値で、上にいけば行くほど息切れが強いことを示しています
横軸は運動を続けて行える時間を示しています
修正Borgの4(ややきつい)に横棒を引っ張ってもらうとわかりやすいです
1番左の実線が未治療の場合でちょうど6分、その状態で「気管支拡張薬」を使うと運動耐久時間が伸びて8分ちょい、更に「酸素療法」を併用すると更に伸びて10分ちょい、そこに更に「運動療法」を加えると14分近くまで伸びています
運動耐久時間が伸びているという事は、治療効果が出ているという事を示しています
「薬」や「酸素療法」だけではなく「運動」つまり「呼吸リハビリテーション」をすると、更に効果的と言う事なんです
ちょっとここで復習します
「息苦しさ」があると図のような悪循環になってしまう事が問題だったんですね
そうポイントは「どうやったら息苦しさを軽減できるか?」でした
その解決方法が「呼吸リハビリテーション」にあるのでこれから詳しく説明していきます
スポンサーリンク
呼吸リハビリテーション
これから① ~ ③について在宅でできるような事を中心に話していきます
またぼくらセラピストが患者さんや家族に指導する際の注意点なども合わせて述べていきます
まず①の呼吸の仕方を工夫するから説明していきます
まずは口すぼめ呼吸を覚えましょう!
溜息をつくような感じでお腹に力を入れずに息を吐きます
お腹に力をいれるのは腹圧呼吸といって別の呼吸法になるので注意!
なぜ口すぼめ呼吸をすれば息切れが軽減するのかについて説明します
COPDの患者さんの中で特に肺気腫タイプの患者さんでは、肺胞が障害されると言う事を以前書かしてもらいました
具体的にいいますと、肺胞の中でも肺胞壁という部分を中心に炎症が起きて破壊されていきます
身近な例でいいますと、肺胞壁は上のスライドでいうとテントの骨の部分になります
テントには骨があるから人が出入りしやすいのですが、骨がない潰れたテントに人は入りやすいでしょうか?
むっちゃ出入りしにくいですね
そのテントに出入りする「人」が「空気」で「テント」が「肺胞」だと思ってもらえると理解しやすいと思います
ではなぜ口すぼめ呼吸をすると息が吐きやすいのかについてです
COPDの患者さんは息を吐く時に気道が塞がりやすく息が十分に吐ききれません
そこで口すぼめ呼吸をすると、気道内圧が高くなり、塞がった気道がひろがるので息が吐きやすくなります
つまり、先ほどいいましたテントの骨の代わりを気道内圧がしてくれる訳なんですね
しかし口すぼめ呼吸には難しい所があって、口をすぼめすぎると逆に息苦しさを誘発してしまうリスクがあります
かなり口をすぼめた状態で息を吐こうとすると、お腹に力が入ってしまうんですね
COPDの方に単に「口をすぼめ息をはきましょう」と言うだけなら素人にもできます
ここでぼくら医療従事者の出番になる訳です!
気道が細くなる言う事は、以前聴診の所でいいましたが、連続性ラ音が生じている訳なんですね
頚部聴診をしながら、その連続性ラ音が消えるあるいは、減少する最小の口すぼめを患者さんと一緒に見つけてあげる必要があるんです
それで、それぞれの患者さんに合った、口すぼめの具合をオーダーメイドで指導する事ができるんです
最後にオマケとして、ぼくが患者さんに口すぼめ呼吸を指導する際にお渡しする資料を貼り付けておきます
参考にしてみて下さい
こんな感じ
ダウンロードはコチラ
また口すぼめ呼吸には、COPDの患者さんに対して息を吐きやすくする効果の他に嚥下機能を改善させるような効果もあります
嚥下の際に飲み物などが鼻から出やすかったりするような軟口蓋挙上不全が観られる患者さんに対して効果があるんですね
それは口すぼめ呼吸で軟口蓋の呼ばれる部位が挙上するためなんです
その訓練にもなる訳なんです
面白いでしょ
口すぼめ呼吸のエビデンスについても少し紹介しておきます
口すぼめ呼吸のエビデンス
【肯定的なもの】
・COPD患者を対象とした口すぼめ呼吸の効果としては、呼吸困難感、呼吸数、動脈血二酸化炭素分圧を有意に減少させ、安静時の一回換気量や酸素飽和度を増大させる(Breslin EH :The pattern of respirattory muscle recruitment during pursed-lips breathing in COPD.Chest 101:75-78,1992) (Tip BL et al :Pursed lips breathin training using ear oximetry.Chest 90:218-221,1986)
・COPD患者の高強度運動中に口すぼめ呼吸を併用すると動的過膨張を軽減し呼吸パターンや酸素化、更には運動耐容能を改善(Cabral LF et al:Pursed lip breathing improves exercise roleance in COPD : a randomized crossover study. Eur J Phys Rehabil Med 51:79-88,2015)
【否定的なもの】
・COPDの患者を対象として口すぼめ呼吸では、運動時の分時換気量や呼吸数を有意に減じるが、6分間歩行距離への即時的な影響は認めない(Mayer AF et al :Effect of acute use of pursed-lips breathing during exercise in pateints with COPD : a systematic review and metaanalysis.Physiotherapy 104:9-17,2018)
つづきはコチラ⇒ 腹式呼吸は指導すべき?
スポンサーリンク
こちらも読まれると更にブラッシュアップできますよ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんの息切れを軽くするために
①COPDの患者さんが医療従事者に望む事は?
②「禁煙」しないとリハビリしても意味はない!
③「薬物療法」 と「酸素療法」に加えて「リハビリ」をする効果は?
④腹式呼吸は指導すべき?
⑤横隔膜の同定には打診!
⑥息苦しい動作をする時のコツを知っていますか?
⑦息苦しい動作の評価の仕方(医療従事者向け)
⑧COPDの患者さんには食事(栄養療法)が大切な理由
⑨なぜCOPDの患者さんは筋トレをしないといけないのか?
⑩「筋持久力」と「全身持久力」との違いはわかりますか?
呼吸理学療法手技
・ポストリフトって知ってますか?
・「呼吸介助」 と 「スクイージング」の違いについてサクッとまとめてみた
・呼吸介助についてまとめてみたよ!
・息苦しいから呼吸介助?(息切れがあっても呼吸介助の意味がない場合)
・自分で痰を出しやすくする方法(ハッフィング)についてまとめてみた
吸引回数を減らすために
①ゴロゴロ(貯痰留音)するからといって反射的に吸引していないですか?
②動く(動かす)と吸引回数が減る理由はわかりますか?
聴診
①前から見た時の、上・中・下葉の見つけ方
②横と後ろから見た時の、上・中・下葉の見つけ方
③肺区域(S1~S10)の場所の見つけ方
④なぜ肺から音が聞こえるかわかりますか?
⑤正常な音と、そうではない音との聞き分け方
呼吸関係その他
・呼吸療法認定士試験の勉強方法
・「スクイージング」の宮川先生達の講義があったので行ってきた!
・酸塩基平衡の見方
・側副気道・排痰機序・等圧点理論
・換気血流比不均等、低換気の原因、シクソトピーコンディショニング
・COPDは糖尿病と同じ?
・貯筋しましょう!(侵襲時の代謝の特徴)
・「運動」は最良の薬!
・ABCDEバンドル と維持期
・COPDの患者さんにも積極的な栄養療法が適さない時期がある!(不可逆的悪液質)
・リスク管理、スターリングの法則、拡散障害
・気道粘膜除去装置(パルサー)説明会
・「オーラルフレイル」の岩佐先生の講義があったので行ってみた!
・呼吸の勉強会(RTXのケーススタデイ)に行ってきた!
・第11回愛媛県呼吸不全研究会に行ってきた!(Mostgraph)
呼吸療法認定士 受験記 (申し込み ~合格まで )
・(5年後)新しい3学会合同呼吸療法認定士の認定書が届いたよ
・(5年後)呼吸療法認定士の更新申請をしてみた!
・(4年後)認定更新手続きの案内が届く
・(翌年)2月23日3学会合同呼吸療法認定士の認定証が届く
・12月31日呼吸療法認定士試験の勉強方法
・12月24日3学会合同呼吸療法認定士 合格しました(≧∀≦)
・12月22日あと数日で、呼吸療法認定士の合格発表
・11月18日呼吸療法士認定試験やっと終わりましたヽ(゚∀゚)ノ
・11月17日試験会場まで下見に行ったら迷子に!
・11月17日今から受験しに東京へ出発
・11月6日ハウ マッチ?(呼吸療法認定士受験必要費用)
・11月2日先ほど受験票が届きました(゚∀゚)
・9月22日11月の受験旅行準備(飛行機とホテルの手配)
・9月15日しばらく放置してましたが(勉強の進捗状況など)
・8月27日これから認定講習会を受講される方はICレコーダーを持っていくべし!
・8月26日講習会を終えて、今治へ帰ります
・8月26日昨日は講習日初日(講習会参加時の注意点など)
・8月24日今から講習会を受けに東京へ出発
・8月24日講習会のある東京でのスケージュールを立ててみる
・6月2日呼吸療法認定士講習会に参加できそう
・4月23日呼吸療法認定士の講習会に参加するためホテルを予約
・4月10日特定記録郵便で申し込み!
オススメの文献