リスク管理、スターリングの法則、拡散障害

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はじめに

今回も愛媛県理学療法士学術集会に行った時の復習の記事になります

今回も忘備録を兼ねて書いていますが、僕という主観がかなり入ったものなので、講師の先生の趣旨とは異なりますのでご注意を

特にぼくの臨床である維持期(訪問リハビリテーション)に関わる事をまとめてみました

 

 

 

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リスク管理

地域包括ケアに関わる理学療法士に求められるコアコンピテンシー(必要な能力)とは何か?というテーマで話をして頂いた際に、リスク管理について分りやすく説明して頂きました

先生が思われるコアコンピテンシーは、「各種ガイドラインに記載されている数字を単に覚える事がコアコンピテンシーではなく、カルテなどの情報から気づきべきリスクを把握した上で、患者さんと面と向かった際に重症度に合わせリスクに重み付けをしていくこと(評価)ができる能力」との事でした

 

 

ぼくも理学療法士の存在意義は、病気を持っている患者さんにいかに安全に、最大限効率的に運動をしてもらうかにあると思っているので、同感です

これはぼくら理学療法士とよく似た職業の方々(作業療法士、健康運動指導士、トレーナー、柔道整復師ets)との相違点であり、強みであるとも思っています

 

 

前回の記事にもしましたABCDEバンドルの様に、早期離床が大事、というのは確かにありますが、早期離床にも弊害があるため、安静のメリット も意識しつつ、病態の悪化を避けながら、患者や家族への説明責任も果たしながら離床をすすめる必要がある、という事を強調されていました

 

ちなみに安静のメリットをまとめるとコチラ

①疼痛の抑制 ②創傷の治癒促進 ③代謝が最小となりエネルギー消費を最小に ④筋骨格系の疲労軽減 ⑥血液循環改善

 

 

 

上の説明責任については、「手術して間もない苦しい状態なのに起こさせられた! 」、など患者さん(やその家族)との間に気持ちのミスマッチがあった際に問題となります

気持ちのミスマッチがあった状態で、リハビリ後にたまたま病態が悪化すると 「リハビリのせいで悪くなった、どうしてくれる!」と責任を問われる(訴訟される)可能性があるためなんですね

sensei_okoru

特に維持期と違って、患者さんや家族との関係性を築く時間が圧倒的に少ない急性期では尚更だと思います

 

 

怖い怖い

 

 

特に現在はインターネットで、各学会のガイドラインが公開されており、本人や家族が簡単に見れる状態にあるため、訴訟されるリスクは昔よりも格段に高くなっています

もちろん僕の主戦場である維持期(訪問看護・訪問リハビリ)でも変わりません

 

そのために私達は何をして、何を知らないといけないのでしょうか?

 

まず離床する(リハビリをする)前に可能な限り患者さんやその家族との気持ちの擦り合わせをしておく、つまりしっかり説明をしておきつつ、病態の悪化つまり臓器障害が起きていないのかを知る必要があるわけです

その臓器障害が起きていいないかどうかと知るために、先生は「Drの考え方に学びましょう!」という事で、以下の敗血症ガイドラインを紹介されていました

 

 

敗血症ガイドライン
日本版敗血症診療ガイドライン – 日本集中治療医学会より 引用改変

 

 

このガイドラインに記載されているマーカーはそんなに特殊なものでもないため、維持期である訪問場面でも使いやすいものです

もし訪問場面で、このような指標が出ていた(出てきた)らやばいと判断して、担当の訪問看護師にすぐ連絡するべきです

とっても参考になる指標を提示して頂き助かりました

 

 

 

スターリングの法則

心臓の調子が悪くなって肺が悪くなっている時や、肺に炎症を起こして肺が悪くなっている時というのは、患者さんは「息苦しさ」を感じています

だからといって「呼吸介助をしよう」と反射的に考えるべきではありません

胸を押して本当に「息苦しさ」が解決するものなのか、肺の中身、つまり病態を考える事が大事

 

 

つまり換気を改善することが呼吸困難感の軽減に繋がない場合がある、という事なんですね

その説明の際に先生が使われたのが「スターリングの法則」でした

これが非常に分りやすかったので図を交えて簡単に紹介したいと思います

だた図に書かれてある数字は、理解しやすい様に適当に設定したものなのでご注意下さい。

正確ではありません。

 

 

 

【通常】

通常

動脈側では血圧(静水圧)は通常35mmHgの力で水分を血管外に押し出そうとしています

これに対して血管外に比べて血管内は膠質浸透圧が高いので25mmHgの力で押しもどしています

このため差し引き10mmHgの圧力で毛細血管の動脈側では、血管外に水分が漏出しています

これに対してが静脈側では血圧(静水圧)は低いのに膠質浸透圧は動脈と変わらないため、水分の流れは逆転して、10mmHgの圧力で血管内に水分が引き込まれています

こうして毛細血管では血圧(静水圧)と膠質浸透圧の両者で水分の移動のバランスが保たれています

これがスターリングの法則(仮説)

 

 

 

【心不全になると】

②

心不全になると、血液が(特に静脈で)停滞する事で、血管内圧が高くなる(静水圧↑)ため、組織から血管内へ戻る水分が少なくなります

これが心不全による浮腫の原因

これが肺で起こると、肺(の組織)が水浸しとなり、(心原性)肺水腫となります

肺が水浸しになると、ガスの交換が障害されるため、患者さんは息苦しさを感じます

「息苦しい」からといって、こういう時に呼吸介助をしても無意味

 

問題は「換気」ではなく「血管内圧」が問題なので、胸を押しても何の解決にもなりません

 

Drはこういう時には、静水圧(血圧)を少しでも下げようとして、血液量を減らす、つまり利尿をまず考えます

あるいは、身体を温める事で末梢血管を開いて静水圧(血圧)を下げようとしているかもしれません

この様な時に、リハビリだからさあ起きましょう!といって布団を剥ぎとって外気に患者さんを晒してしまうと、

DrやICUの看護師さんから「なんじゃコイツは!」とひょっとしたら思われてしまうかもしれません

 

 

 

【炎症が起きると】

③

炎症が起きると、血管透過性が亢進して、血管内の血漿成分が組織へただ漏れしている状態です

この状態になってしまうと組織から血管に水分を引き込む膠質浸透圧がかなり低下します

そうなると、動脈からも静脈からも水分がドンドン組織に流れ浮腫が生じます

肺炎っていうのは、この肺内の血管透過性が亢進して肺胞内が水浸しになっている状態

こういう時も息苦しいからといって呼吸介助をするのは無意味

(その水が溜まって痰として換気障害を引き起こしている場合には呼吸介助は有効だと思いますが)

Drは炎症を抑える薬を投与しつつ、静水圧を下げるため利尿をし、肺(肺胞)内に入ってくる水を押し返そうと考えて、空気の圧(PEEP)をかけたりします

④

 

図で考えると分りやすいですね

肺胞でのガス交換の事が出たので、ついでに拡散障害について説明してみたいと思います

 

 

拡散障害

ガス交換は肺胞で血液中から二酸化炭素を排出し、酸素を取り込む事で行われます

肺炎や肺水腫になるとガス交換を行う肺胞の間質が浮腫んで分厚くなります

二酸化炭素は酸素の20倍拡散しやすい(間質を通り抜けやすい)ため肺胞での二酸化炭素の排出は障害されにくいですが、酸素の方は障害されやすいという違いがあります

 

【通常】

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通常は間質は十分薄いため、酸素(O2)も二酸化炭素(CO2)も問題なくガス交換できます

 

 

【肺炎等になると】

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しかし肺炎などになってしまうと、間質が分厚くなります

二酸化炭素は拡散する力が強いので、全く問題なく排出されますが、酸素はずっと弱いので取り込みが障害されます

酸素は血流中にある赤血球に酸素を渡すことができれば取り込みが完了

血流がゆっくりなら何とか渡すことができますが、血流が早くなる運動時にはうまいこと赤血球に渡すことができません

 

つまり安静時ならSpo2は正常なのに、運動時には途端にSpo2が低下する事が起きる訳です

特に間質性肺炎の方に著明

この様な方に対して「息苦しい」からといって呼吸介助をするのは間違いです

換気は問題ないんですね

もしリハビリ場面でこのような患者さんから「息苦しさ」の訴えが観られたら、血流をゆっくりするために休んで息を整えてもらうこと(呼吸調整)をすべきです

あるいは血流を早くしなくてもよい様な動作方法の指導環境調整がぼくらリハビリテーションに関わる者がまずする事だと思います

 

 

最後に、講義をして頂いた先生ありがとうございました。

 

 

 

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