心臓リハビリテーション(リスク管理)

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はじめに

ぼくが仕事をしている病院の方から、3月末にリハビリスタッフ向けに心疾患患者のリスク管理について短めに講義をして欲しいという依頼を受けました

という事で準備を進めていたのですがコロナの影響で急遽中止( ;´꒳`;)

 

それだったらネット上に公開してしまえばいいんじゃね、という事で今回この記事にまとめました

ただ今回の内容は、ぼくが心臓リハビリテーション指導士や認定療法士(循環)の資格を取得の過程で得た知識ですが、ぼくというフィルターにかけた結果思いっきり偏った内容になっているのでご了承下さい

突っ込み所も多いので、是非指摘修正して頂けると非常に喜びます!

 

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では、はじまりはじまり

 

 

今回の講義では、ぼくの事をあまり知らない方もいると思ったのでこんなスライドも作りました

こちらのブロクでも書いていますが、ぼくは2018年に心臓リハビリテーション指導士の資格と、よく2019年には認定理学療法士(循環)の資格を取得

なので受験勉強で最低レベルの知識はありますよ、という事をここでアピール

 

それぞれの資格について簡単に説明しておきます

心臓リハビリテーション指導士という資格を持つ事で何か診療報酬上のメリットはあるのか、という事をよく聞かれます

 

その診療報酬上では、心臓リハビリテーション料として算定するためには、いろんな条件があるのですが、人員要件の1つに現在の所「心臓リハビリテーションの経験のある者」というものがあります

 

なんか曖昧ですよね

 

その「心臓リハビリテーションの経験のある者」について、2006年厚労省の疑義解釈では、「心臓リハビリテーション学会の心臓リハビリテーション研修を受けた者」という記載がありました

ちなみに、心臓リハビリテーション研修についてはぼくが実際に体験したのでこちらの記事に詳しく書いてあります

 

ただ心臓リハビリテーション学会としては「2021年より心臓リハビリテーションの経験のある者とは、心臓リハビリテーション指導士の資格を持つもの」とする事を決められました

つまり学会としては、リハビリテーション研修を受けたものでは十分でないという判断です

なので心臓リハビリテーション料を算定しているのに、現在心臓リハビリテーション指導士のいない病院では、2021年に向けて、自分のスタッフに指導士資格を取得させるか外部から入れる、といった流れがあります

後から詳しくのべますが、心不全の患者さんはむっちゃ増えていることもあり、これから心臓リハビリテーション指導士の需要は大きくなるんじゃないかな、と思っています

 

 

もう1つの認定理学療法士(循環)という資格は、理学療法士協会が作った資格ですが、診療報酬上のメリットは全くありません

協会は認定看護師の様に加算に結びつけたかったんだと思いますが、前回の選挙で理学療法士が落選してしまい望みは断たれたと思っています

ただ病院などのHPなどに医療広告として表示できる様に、医療広告ガイドラインに従う形で2021年度から新しい新生涯学習制度が始まります

今のうちにこの認定理学療法士(循環)を取得しておくと、新制度が始まってから取得するより時間をだいぶ節約できるので、ぼくは去年とっておきました

ただこの資格を取得する際にいくつかの講習会に参加しないといけかったんですが、最新の知見などもついでに教えて頂けたのでこの資格取得のために勉強して良かったと感じています

 

 

今日の話の内容

で話を戻しまして、今からどんな事を話すのかといいますと、

普段の臨床で関わる事の多い心不全について話をした後、

その心不全の方に対するリスク管理として具体的にどうしたらいいのか、特にぼくのいる病院でもすぐにできそうな事について話をしていきます

 

 

そもそもぼくらが普段関わる患者さんの殆どは、このスライドの①の様に糖尿病や高血圧、高脂血症など心疾患リスクを抱えた運動器や脳血管、廃用の患者さんだったり、

②の狭心症や心筋梗塞後や心臓の術後の患者さんだったり心疾患を持たれている患者さんです

これらの患者さんにリハビリをする上ではリスク管理が必要という事で、今回その話をしていきます

 

 

ただ話を進める前に、ここにも書いてある様に心疾患のある患者さんイコール心不全の患者さんという訳ではなく誤解されている方も多いと思われるので、その説明をします

 

そもそも心不全というのは医学的な疾患名ではないという事なんですね

心不全は心臓が悪いという事を総合的に表す言葉です

 

え!

 

「うっ血性心不全」や「慢性心不全」ってカルテの疾患名の所にも書いてあるやん、医学的な名称じゃないの?、て思われる方もいると思います

 

ちなみに「うっ血性心不全」を簡単にいうと、心臓が悪くなって非常に症状が強く出ていて、それを身体が何とかしよう(代償しよう)とヒーヒーいいながら頑張っている状態の事をいいます

要するにまだまだ安定していない急性期の状態のことです

一方、心臓は悪くなっていて症状もそれなりに出ているんだけれど、身体が無理して頑張ってくれたおかげでそれなりの症状ですんでいる(小康状態)になっている状態が「慢性心不全」のイメージです

 

また主治医からも心不全と診断されても禁煙や食事制限や服薬など守ってくれない患者さんが多く、

心不全はガンよりも予後が悪いのも多いのに軽く捉えられてる所があって、循環器学会や心不全学会もこりゃあかんという事で、2017年に「心不全という言葉の定義」を学会としてしっかりする事にしました

 

それがこれ

 

 

心不全とは

心不全とは「心臓が悪いために、息切れやむくみなどが起こり、だんだん悪くなって生命を縮める病気」と定義されました

つまり極論すると一度なっちゃうと良くなる事はなく死にますという事です

 

代表的な症状としては「息切れ」や「むくみ」が多いのですが、疲れやすかったり横になると息苦しくなって寝れなかったり、手足が冷たくなるなどの症状があります

心不全で日常生活で息切れが生じている様な方の生命予後って、ガンと比較すると手術が可能なギリギリのラインであるⅢaより予後が悪いと言われています

膵臓ガンよりかは全然いいですけど、みんな結構気にする大腸ガンの人よりも予後が悪いんですね

 

そんな事を国民にも知ってもらいたくて、この様にわかりやすく心不全の定義を公開したり、気に留めて貰うように日本循環器学会や心不全学会がが右側のパンフレットを作って広報活動を行っています

アニメの忍者ハットリくんの主人公の弟が「しんぞう」という名前だったので、「シンゾウ(心臓)を守りましょう!」という事をいいたかったみたい

かなり昔のアニメなので忍者ハットリ君自体知っている人がどれほどいるのか……

とちょっと残念な気持ちにさせてくれています

 

 

で、その心不全の人はどのような経過を辿るのか、わかりやすい図があります

厚労省の検討会でも使われている非常にポピュラーが図がこちら

 

 

 

心不全には、この図の様にA, B, C, D4つのステージあります

 

ステージAというのは、解剖学的に器質的に心臓には何の異変もないけど、高血圧だったり糖尿病だったり、異変を起こす要因をもっている状態

 

ステージBとは、Aから少し進んで、解剖学的に心臓に異変は観られているんやけど、症状がみられていない状態

 

で、ステージCというは、ステージBから解剖学的な異変がすすんで症状も観られ始めた状態で、大体このあたりで症状が重く出て急性の心不全という事で急性期病院(病棟)に入院された後、リハビリが必要という事でぼくら(回復期病棟)とご対面される訳です

入院中に投薬等によって代償がすすんで急性症状もおさまり、低下したADLもリハビリで自宅で生活できるくらい改善して退院されるんですけども……

服薬をちゃんとしなかったり、塩分の多い食事に戻ってしまったり、風邪を引いたりして身体の抵抗力が落ちた時に急性増悪という形でまた症状が強く出て、再度ぼくらとご対面するのもこのステージ

入退院を繰り返すうちに症状もADLもだんだんだん悪くなっていきます

 

そうこうしているうちにステージD、いろんな投薬がされても体が反応しなくなって、ガン悪液質みたいに心臓悪液質(心臓カヘキシア)を呼ばれている状態になってしまいます

この頃は腸もうっ血して栄養吸収はできないは、全身は炎症で燃えているは、蛋白異化も進んでしまってガリガリの状態となってしまっている方が多いです

当然もうこの状態では筋トレ(レジスタンストレーニング)も有酸素運動も禁忌

やろうと思ってもできない状態ですね

緩和的なリハビリや本当に必要なADL・環境調整中心のリハビリとなります

 

そして最後は亡くなってしまいます

心不全ってなかなシビアですよ、という事をこの図は教えてくれます

 

 

そんな心不全なのです今日本ではむっちゃ増えています

 

 

心不全の患者さんは多い

先程心不全の経過について簡単に説明したのですが、今度はむっちゃ心不全の患者さんが多いという事を説明していきます

ぼくらが普段関わる患者さんってほとんど心不全と病名がついている人が多い感じがしませんか?

 

確かにぼくのいる病院は心臓内科医が多いので当然といえば当然かもしれませんが、日本全体で実はそういった感じになってきているんですね

それについて簡単に説明します

 

 

 

こちらの左のグラフを観ていただきたいのですが、新たに心不全と診断された患者さんの数の推移になります

今年(2020年)ぐらいまで、かなりの勢い増え続けています

 

なんでこんなに増えているのかといいますと、高齢であればあるほど心不全になりやすいからです

米国の研究によると、50歳代での慢性心不全の発症率は1%であるのに対し、80歳以上では10%になるというふうに報告されています

約10倍ですよ

 

またここで気をつけてもらいたいのはあくまで新規に診断された人という事なんです

累積ではないんです

一方右側のグラフの点線の所をみてもらいたいのですが、心不全が原因で亡くなる患者さんは医学の進歩に伴って年々減っています

 

この2つを合わせると、新たに心不全になる人は高齢化にともなって増えているのに、死ぬ人は減っているという事で、心不全の患者さんはむっちゃ増えているという事です

ではどれくらい増えるのかというと次のスライド

 

 

 

こちらグラフは心疾患患者の推移を表したものになるのですが、それで日本の人口のピークが2008年なのに、心疾患患者さんの人口のピークは2040年になると言われています

心疾患ナットイコール心不全ではありますが、心不全の症状が出ている患者さんというのは心疾患を持たれている訳なので同じく2040年が心不全患者さんのピークといえます

文献によると130万人以上が心不全となって、入院できるベッドがない「心不全パンデミック」が起きるのではないかと危惧されている訳です

(厚労省は入院できるベッドの数を削減していますし)

 

 

では、ぼくらがお目にかかることが少ない地域に住む患者さんはどうなのかといいますと

 

海外のデータになるのですが、地域在住6118人を対象にした研究

心臓に器質的な異常はないんやど糖尿病などのリスクがある人、さきほどのステージ分類でステージAの人が赤色52%いて

心臓疾患と診断されてはいるんやけど症状のない人、先程のステージ分類ではステージBの人が黄緑で30%いて

症状がでてまだ代償されていないような人、ステージCに含まれるような人が紫で7%いて

症状がでているんやけど代償されて通院しているような人、これもステージCに含まれるような人が6%いてるというグラフになります

 

この結果から心不全リスクのある人ともう心不全になっている人とを合わせると、地域在住の高齢者の95%はぼくらのリハビリの対象者になるという事なんですね

 

 

 

そんなに心不全の患者さんが多いんで厚労省もこのままじゃあかんということで

2年前の2018年循環器対策基本法という法律も作られ既に成立しています

(正式名称は「脳卒中・循環器病対策基本法」で脳卒中予防とセット)

 

まだ診療報酬上はまったく反映されてはいないのですが、すでに2006年に成立したガン対策基本法がこれから循環器対策基本法がどうなっていくのか指標になります

 

具体的にガン対策基本法が成立してからどんな事がされたかといいますと

・疫学調査や一般への啓蒙活動

・がん検診などの早期発見

・がん拠点病院などの創設

・ガン研究予算増額

・ぼくらに関わるものとしてはがん患者リハビリテーション料の創設

などなど

 

法律はできましたから、心不全の方に対してもこのような政策が行われていくんじゃないかと期待しています

そんな事もあったのでぼくがいる病院は疾患別リハビリで心リハで算定していないですが、ぼくは心リハ指導士の資格をとった理由でもあります

 

 

心不全について簡単に説明

そんな心不全についてもぼくが学生だった頃に比べると、新しく分かってきた事も多いのでそれらについて簡単に説明します

 

 

 

心不全には大きく分けて2つのタイプがありまして、1つはHFrEF(ヘフレフ)ともう1つはHFpEF(ヘフペフ)

従来のみんなイメージしやすい心臓のポンプ機能が低下した心不全がヘフレフで、近年言われ始めたのが新しい心不全でそれがヘフペフといいます

これは心臓のポンプ機能は保たれているのに心臓の緩みにくいタイプの心不全で、心エコー検査機器精度がよくなってきて分かってきました

 

調べてみると従来の心不全であるヘフレフよりもヘフペフの方が患者の数が意外に多いのと、治療法がまだ確立していないので「やべ」となって今研究が進んでいる状態です

 

そのヘフレフに対して現段階で有効ではないかと、言われているのがぼくらの治療手段である運動療法と、前々からいわれている多職種連携アプローチになります

 

心不全のタイプにはこのヘフレフ、ヘフペフ以外にもそのあいなかであるHFmrEF(ミッドレンジ)と、ヘフレフが改善した状態であるHFpEF improved(ヘフペフインプルーブド)などの細かい分類があるんですけれども、心不全にはこの大きく分けてヘフレフとヘフペフの2種類があると思っていただけたら分かりやすいと思います

(更に詳しく知りたい方は2017年改訂版の急性・慢性心不全診療ガイドラインを参照)

 

 

簡単にその2つ心不全の違いについてまとめたのがこちらの表になります

 

LVEFというのは左室駆出率の事で、心臓の血液を送り出すポンプの能力を意味して、通常60%以上が正常となります

ちなみにぼくらの病院のカルテでは心エコー初見の所にEFいくらと書かれていますよ

ヘフレフというのはそのLVEFが40%未満と少なく、一方ヘフペフは50%以上あるという大きな違いがあります

 

心不全患者の割合では、ヘフレフもヘフペフも同じくらいいると言われていますが、東北 6 県の関連施設 24施設により行っている1万人強の前向き登録観察研究(=CHART-2研究)では、68.7%とヘフレフよりも多い割合となっています

実際の入院患者さんもヘフペフの方が多い印象

 

特徴としては、ヘフレフは心筋疾患が多く左室拡大があるという特徴があり、ヘフペフは高齢者・女性に多く、心房細動を合併している事も多いという特徴があります

 

治療法としてはヘフレフの方はESCガイドライン2016があったり、β遮断薬やRAS系阻害薬など多く薬剤にエビデンスが蓄積されているに対し、ヘフペフは近年わかってきた病態であるため、まだ確立されていません

 

予後としては、両方とも同じぐらいで入院された患者さんの5年生存率は50%程度といわれています

分かりやすいガンと比較すると肺がんよりはいいけど、みんなよくなる大腸がんより悪いといった状況です

 

 

 

で心不全の2つのタイプについて簡単に説明しました

今度は新しい心不全のヘフペフに対して有効ではないかと言われているものとして、多職種連携アプローチ運動療法があるんですが、それらの説明をしていきます

運動療法については後から詳しく話をする事にして、ここでは多職種連携について簡単に説明

 

 

 

こちらのグラフは鳥取大学の衣笠先生がまとめられたもの(日経メディカル 脳心血管疾患の最新動向)になります

このグラフは、従来型の心不全であるヘフレフに対しても、新たにわかってきた心不全であるヘフペフに対して、関わる医療職種が増えれば増えるほど心不全増悪による再入院や、心臓死などの心イベントが減りますよ、とい事を示しています

(ちなみにヘフレフとヘフペフに分けずに、単純に心不全患者に対して多職種連携で心イベントが減りますよという衣笠先生の論文はこちら

 

多職種連携は肌感としてもすればいいいことは分かっているのですが、普段の臨床で実践するとっても難しいです (・・;). 

 

 

 

何度も出ています心不全の重症度をステージを示しているスライドなのですが、心不全の重症度はこのようにAからDまであるわけですが

重要なのはここにも書いている様にステージは一方通行で戻ることがないため、なんとしても次のステージにいくのを妨げる必要があるわけなんです

必ず次のステージに行きますから、次のステージにいくのを何とかして伸ばし伸ばしする事が大事なんですね

 

 

 

 

つまり心不全のステージを次に行かせないアプローチがぼくら医療従事者に求められているんです

極論すれば、できたらDにいくまでに(健康)寿命を全うしてもらいたいわけ

 

そのステージを進めさせる大きな要因の1つにフレイル(プレフレイル)というものがあるんですね

しかもそれはぼくら理学療法士や作業療法士が何とかできるものであるので、近年注目さています

 

 

 

「心疾患リスクの予防イコールフレイル予防だ!」という事でここ数年心リハ界隈ではトピックになっています

 

このフレイルがどれくらい影響をもっているかといいますと、文献によってパーセンテージは異なるのですが心不全患者の44%がフレイルが合併していたり、フレイルがあるだけで再入院リスクが65%も上昇したというデータもあります

しかもそのフレイルに対して有効な治療手段は2つで、それが運動療法栄養療法なんですね

その運動療法は、ぼくら理学療法士や作業療法士の得意とする所じゃないでしょうか

 

 

フレイルの影響

こちらのグラフはこの論文(Sze S, et al:Prognostic value ofsimple frailty and malnutrition screening tools in patients with acute heart failure due to left ventricularsystolic dysfunction. Clin Res Cardiol 2017)からの引用

 

フレイルの影響をよく表しています

心疾患のあるけれどフレイルの状態ではない患者さん達とフレイルの状態である患者さん達の予後(左側のグラフ)と再入院(右側のグラフ)について比較したものです

左のグラフは死ななくてすんだ人の割合を示したグラフ

フレイルじゃない心疾患の人は亡くならずにすんでいるのに対して、フレイルの人は結構亡くなっています

下の数字の所をみてもらったらはわかりやすいのですが、まずフレイルじゃない心疾患の人は、初め176人いたんですけど52週経過した段階で28人亡くなって142人になっています

一方フレイルの心疾患の人は初め236人いたんですけども、52週経過した段階で97人なくなって149人となっています

フレイルがあるだけで予後が悪そうですね

 

右側のグラフは一回入院したんやけど急性増悪してもう一回入院するハメにならずすんだ人の割合をしめしたグラフになるのですが

フレイルじゃない心疾患の人は結構再入院するハメに陥らずにすんでいるのに対して

フレイルの人は結構再入院するハメに陥っているという事がよくわかります

 

ここでは心不全の患者さんの44%がフレイルを合併していると書いてありますが、文献によっては75%と書いてある文献やフレイルがあるだけでも再入院リスクが65%も増える(McNallan SM et al:Frailty and healthcare utilization among patients with heart failure in the community.JACC Heart Fail 2013:1:135-141)といっている文献もあります

 

 

 

他にもフレイルがあるだけで冠動脈疾患を引き起こしやすくするというデータもあります

こちらの図は Jonathan Afilalo:Role of Frailty in Patients With Cardiovascular Disease.Am J Cardiol. 2009 Jun 1;103(11):1616-21 からの引用になりますが、フレイルのあるなしで冠動脈疾患(CAD)の発症率が変わるのが一目瞭然ですね

 

 

その心不全に影響を及ぼすフレイルなんですが、それについて説明していきます

 

 

 

フレイルって何?

 

 

 

 

フレイルとは直訳すれば「虚弱」という事で、わかりやすく言えば「加齢により心身が老い衰えた状態」のことを言います

しかしフレイルは早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があるという事が一番のキモとなる部分です

心不全自体のステージは一方通行で戻る事はないのですが、フレイル自体は良くすることができる訳なんですね

これがフレイルが注目されている大きな要因です

 

しかもフレイルをよくするには現状では運動療法栄養療法しかなく

それらに対する有効な手段をぼくら理学療法士や作業療法士はもっているということで注目されている訳です

 

ただフレイルの診断基準には世界でまだ統一されてなく、いくつかの種類があり統一しようという流れになっています

有名な所ではFried ScareFrail Scare、日本ではJーCHSスケールが使われています

日本でよく使われているJーCHSスケールについて説明

 

 

 

JーCHSスケールでのフレイルの判断基準はこの5項目

 

・6ヶ月で2~3kg以上の体重減少がないか、

・男性で握力26g、女性では18kg未満か、

・最近2週間でわけもなく疲れた様な感じがするかどうか、

・歩行速度が1m/s未満か、定期的に軽い運動をしているか 

 

この項目で3項目以上当てはまればフレイルと判断でき、1~2項目当てはまればフレイルの前段階であるプレフレイルと判断されます

とっても分かりやすいですね

 

 

その大きな影響のあるフレイルに対して、どの様な事をしたらいいのかと言いますと

それは運動療法栄養療法なのですが、みなさん具体的な運動療法のプログラム内容を知りたですよね

 

そのプログラム内容について海外で研究されているので、フレイルについて書かれたこちらの論文を紹介します

 

 

 

2015年に出された論文なのですが、この論文ではフレイルを合併している入院患者に対してどの様な治療プログラムをしたら効果的だったのか比較した研究です

 

従来の訓練プログラムである低強度のプログラム、つまりリラクセーションやROMがほとんどで最後の最後に歩いてもらって終わりという内容では「フレイルの改善には寄与しない」と結論付けられていました

でもこのようなプログラムは今もよくされいるんじゃないでしょうか?

 

分かります

Drから指示は包括的で詳細な運動強度設定もなければ、運動療法中に見れる心電図モニタもない、そのため患者さんや自分、そして自分の所属している組織を守るためにも負荷をかけたくない、という気持ちも分かります

でも入院患者さんの何人かは、あるいはその家族さんはちょっとでも良くなってもらいたい人はいる訳で、そういう方々の思いには応えたいですよね

そのためにぼくらプロの理学療法士や作業療法士がいる訳ですから

 

強度に不安があれば主治医に聞けますよね

モニタがなくてもできる事はありまよね

 

それで結果を出すためにはどんな事をしたらいいのかという事もこちらの論文で書かれています

フレイルを合併している患者さんに対しては、中~高強度の運動負荷を与えないと良くなりませんよという事でした

つまり一番重要なのが、リラクセーションやROM.exではなくて、レジスタンストレーニングいわゆる筋トレで

 

その次は「何となく歩いてもらったり何となく自転車に乗ってもらう」のではなく、速度設定をした歩行練習や強度設定を自転車エルゴ

そして一番少ないのがリラクセーションやROM、という全身調整運動といった構成になっています

 

もちろん代償が終わっていない様な、うっ血性心不全(急性期)の方にこのような中~高強度の運動を勧めるわけではないのですが、カテコラミン製剤などが使われなくなり代償期に入って回復期病棟に上がられた様な患者さんに対しては、強度の高めの運動じゃないと良くなりませんよ、という事を意識していただけたらと思います

 

 

 

ここまでの話をまとめますと

心疾患の患者さんにはフレイルを合併している事が多くて、そのフレイルに対しては運動療法が効果的で、その運動療法は中~高負荷の運動強度が必要という事を話してきました

 

ではなぜ運動療法がいいのか、特に心疾患をもった患者さんに対して有効なのか?

その理由を簡単に説明していきます

 

 

 

心不全の患者さんに対して運動療法が有効な理由

心不全の患者さんに対して運動療法が有効な理由について説明していきます

 

 

 

心不全の患者さんの自覚症状としてもっとも多いのが息切れ疲労感なのですが(心臓疾患の初発症状は基本的に呼吸症状と言われています)、この息切れがとっても悪さをするので、それについて簡単に説明します

 

その息苦しさがあることでどうなるのかといいますと、この図の様にまず動く事がおっくうになって活動量が落ち、食事量も落ち筋量も落ちるという(2次性の)サルコペニアを引き起こしてしまいます

そうなってくると動くときに更に息苦しくなり、またさらに活動量が落ち、さらに筋量も落ちるという、昔よく言われていた廃用の悪循環、はやりの言葉で言えばフレイルサイクルを引き起こしやすいんですね

その息苦しさに対して運動療法は直接的に改善する事ができるんです

 

 

 

昔、心疾患の患者さんの運動能力の低下や労作時の倦怠感や息切れは、心臓の血液を送り出す力(左室駆出率LVEF)が弱くてそうなっているんじゃないかと思い込まれていました

しかし数多くの研究や心エコー技術の発展もあって、特に心疾患の患者さんの息切れや倦怠感の主な要因は心臓の血液を送り出す力というよりも、手足の骨格筋の筋肉量だったり、呼吸筋の疲労度だったり、血管の緩む力だったり、それらの影響の方が大きいんじゃないかという事がわかってきたんですね

昔だったらLVEF低下に対してぼくら理学療法士や作業療法士は何もアプローチする治療する手段はなかったのですが、筋肉(骨格筋)となったらぼくらの専門領域な訳ですよ

しかも、この血管拡張能や呼吸筋疲労に対しても運動療法でアプローチが可能であり、最新の知見ではこの左室駆出率低下に対しても心筋自体に運動療法が有効ではないかという研究が観られ始めています

 

 

 

なぜそんな運動療法にそんな効果があるのかといいますと

運動療法により骨格筋のミトコンドリアの「質」と「密度」を改善することができ、それが嫌気性代謝閾値を改善させ、乳酸を作りにくくする事で酸性に傾くのを軽減して、息切れを改善するためなんですね

最近の知見では、心筋細胞内にあるゴミを除去する機能、これをオートファジーというんですが、有酸素系の運動をする事でその機能が促進され、異常ミトコンコンドリア(タンパク)が減少する事で心筋の機能が向上するという報告も観られています

この心筋細胞内のゴミを除去する薬は今の所なく運動療法一択な訳です

なかなか運動療法がいい訳なんですね

 

その運動療法では、運動の「強度」はミトコンドリアの質を改善し、その「量」はミトコンドリアの密度を改善すると言われています

その筋肉の量と死亡率の関係を観た研究があるので紹介したいと思います

 

 

 

またこちらは神谷(カミヤ)先生のThe American journal of medicineという医学雑誌に掲載された論文です

cumulative events rateというのは累積心事故発生率の事で、Q1は大腿四頭筋筋力が一番弱いグループでQ4が一番強いグループになります、このグラフの様に大腿四頭筋の筋力が強ければ強いほど、心事故発生率が少ないというデータになります

患者さんにレジスタンストレーニング(筋トレ)を勧める時にも結構使えると思います

 

 

 

うっ血性心不全など代償がすすんでいない心不全の方だったり、心不全の末期だったり場合は別ですが、それ以外の患者さんで、中々連続した運動(有酸素運動)が難しい様な患者さんに対しても、レジスタンストレーニングなら行える場合が多くあります

それは負荷強度というのは患者さんそれぞれによって異なる相対的なものだからです

 

 

それに関する研究(LIU, YANGHUl et al:Associations of Resistance Exercise with Cardiovascular Disease Morbidity and Mortality:Medicine & Science in Sports & Exercise: March 2019 – Volume 51 – Issue 3 – p 499-508)があります

 

 

 

こちらの研究はレジスタンストレーニングの頻度と死亡率(左グラフ)、時間と死亡率(右グラフ)との関係を調べたものです

1週間でたった1~2回、時間では1時間、つまり1日10分程度の筋トレで全死亡率が低下しますよ、という事をしめしています

筋トレはちょっとでもいいですね

 

 

 

でも心不全の患者さんに中~高強度の運動って怖いのが普通だと思います

負荷が強すぎると患者さんを殺してしまう事になりますから

 

 

 

こちらの図は運動負荷と身体機能との関係を図にしたもので、認定理学療法士の講習会でも使われていたものです

この図を説明しますと、身体機能の低い方というのは運動負荷が低くても安全限界を超えて運動のメリットがデメリットよりも上回ってしまいます

だからといって運動負荷が低すぎると運動しても効果がない有効限界を下回ってしまう訳です

なのでぼくらが目指す所は安全限界と有効限界との間という事になります

 

心不全の重症度が高い患者さんほど安全限界と有効限界の間が狭い訳なんですね

なのでぼくらはこの間をギリギリ攻める訳です

その際に必要なのがリスク管理というものなので、それについて説明します

 

 

 

まず結論からいいますと

心不全の患者さんに対して、こうすれば絶対に安全というリスク管理(運動プロコトル / 運動手順)はありません

それははじめに言いましたように、心不全になった原因疾患が患者さんによって異なるためです

(ちなみに心不全になる原因疾患で多いものから挙げると、高血圧性、虚血性、弁膜症、心筋症となっています)

 

疾患ごとにガイドラインは作られているので、ガイドラインで確認しながらリハを行っていただけたらと思います

ただ心不全という事に関わらず、知っておくべきリハの禁忌や中止基準などがあるので、PDF(添付資料)にまとめておきました

知っておくべき事だと思うので、知らないとやばい所は空欄にしておきました

ご自身のやばさ加減をチェックしてみましょう!

 

心臓リハビリテーション(ブログ問題版)

↑  解答は一番最後に載せておきます

 

 

 

リスク管理の3段階

話を戻しましてリスク管理について話していくのですが、リスク管理にはこのスライドの様な3つの段階があります

1つはリスクに気づくという事で、まず患者さんの所に行く前に、現病歴や既往、合併症を確認したり、Nsから情報を聴取したりします

そして2つ目は、リスクを評価するという事で、沢山あるリスクを評価して優先順位をつけたりして、実際に理学療法が行えるかどうかを判断します

また行う際にはその際にはリスクを生じない様に工夫します

そして3つ目は、リスクを管理するという事で、重症度に応じたモニタリングをしつつ、急変等が起こった際には適切に対処します

 

心不全の患者さんでは、特に①について心不全となるにいたった原因疾患が異なるため各種ガイドラインを観ていただきたいのですが、②、③に関しは共通する場合も多いので、今回は②、③の一部について詳しく説明していきます

 

 

 

 

②、③に共通するという事で、次の1)から5)について説明していこうと思います
では1)の運動の前にはウォーミングアップ、運動の後にはクールダウンを行うについて説明いていきます

ウォーミングアップやクールダウンは何なのかというと、有酸素運動やレジスタンストレーニングの前や後に10分程度する極々軽負荷な運動やストレッチの事をいいます

 

 

 

そもそも避けるべき心事故の2/3以上はウォーミングアップかクールダウン中の運動中に発生しています

 

また健常人でもウォーミングアップなしの急激な運動では60~70%の心筋虚血と左室収縮力低下が起きています

心疾患を抱える患者さんならいわんや、ですね

 

またウォーミングアップには、エネルギー供給系をPCr系や解糖系から有酸素系に移行しやすくして、アシドーシスに傾くのを予防して、換気量が増えるのを防いだり、カテコラミンを増やすのを予防して不整脈を防いだりする効果があるのですね

 

そのため少なくとも有酸素運動やレジスタンストレーニングの前後に10分程度のウォーミングアップやクールダウンをしましょうという事で

とくに重症度の高い方ほど交感神経がビンビンになっているのでその時間を長めにする必要があります

自動で動かす事自体が難しい方がそもそも有酸素運動やレジスタンストレーニングをするのかという事はあるのですが、重症度の高い方にする場合などは軽負荷の運動の代わりにストレッチをしても同様の効果があるのでしてみることをおすすめします


(日本体育協会公認アスレチックトレーナー専門科目テキスト P274.文光堂より引用)

 

クールダウンの効果としては、運動後にじーと安静にしているよりも、軽い運動を行った方がが乳酸の半減期が半分になります

つまり血液中の乳酸が半分に取り除かれるまでの時間が半分になっちゃうという事です

 

 

 

続いて2)のレジスタンストレーニングは有酸素運動の後にというのは、有酸素運動自体がレジスタンストレーニングのウォーミングアップになっちゃうという事です

で次の3)に行くのですが、レジスタンストレーニング時には息こらえを避けるという事なんですが

 

 

 

息こらえ(Valsalva)の研究はいくつかあるのですが、こちらのグラフはその1つ(PTジャーナル1998;32;687-692)

 

こちらの図は85%1RMという高負荷な運動をした時の口腔内圧と収縮期血圧の様子をみたグラフになります

上が収縮期血圧で下が口腔内圧

下の口腔内圧の上昇に伴い収縮期血圧が300mmHgまで上がるという恐ろしい結果となってます

 

生理学的には息を止める事によってどんな事が起きているかというと、胸腔および腹腔内圧が上昇し(右心室圧上昇し)静脈還流量が減少、それによって心拍出量が減少すると心肺圧受容反射が更進し、交感神経が緊張して心拍上昇末梢血管抵抗が上昇不整脈を誘発してしまう事になるんですね

これを避けましょうという事です

 

ではどうすればいいかといいますと、息を止めず息を吐きながらうごかしたらいいのですが、普段意識していないので普通に難しいですね

特に高齢の方には

そういう場合には数を数えてもらうと自然と息を吐けるのでいいですよ

 

また通常、息を吸う時にはエネルギーを使うのですが、吐く時にはエネルギーを殆ど使わないのでエネルギー効率の面からみても息を吐く時に動かす(力を入れる)のは効果的です

よくCOPDで息切れのある方にもよくしますね 

⇒ (参考)息苦しい動作をする時のコツ(呼吸リハビリテーション⑥)

 

 

 

ではリスクを生じない様にするという事で4)の有酸素運動として自転車エルゴとレジスタンストレーニングの負荷強度の設定方法について説明していきます

 

 

自転車エルゴやレジスタンストレーニングの強度設定

フレイルを改善するためには中~高強度の運動がいいという事がわかったとして、際限なく負荷を強めたらいいのでしょうか?

もちろんそんな事はなくで目指すべき値というものが存在します

 

 

 

酸素運動の自転車エルゴや筋トレでとりあえず目指すべきは5METsの運動耐容能になります

ちなみに運動耐容能とは、簡単に言えば負荷に対して耐える事のできる心肺血管筋系の総合的な能力の事です

ワーサーマンの歯車をイメージしてもらえるといいと思います

 

こちらががワッサーマンの歯車

ワッサーマンの歯車

YUMENAVi様より引用・改変

 

持続的に運動をするのに必要なエネルギーは、この3つの歯車「肺」「心臓・血液」「骨格筋」)が回り続け、骨格筋内のミトコンドリア内でATP がADPになる時に生み出されます

そのため歯車の一箇所でも動きが悪くなると、全体に影響を与え、持続的な運動が難しくなります

そんなイメージでこの歯車を捉えてもらうといいじゃないでしょうか

 

 

話を戻しまして

5METsなのは心疾患患者において運動耐容能が5METs未満だと死亡率やADL低下を引き起こしてしまうという事がわかっているためなんですね

ちなみにMETsは40歳で体重が70kgの白人男性が安静座位で呼気ガス分析により得られた酸素消費量3.5mL/min/kgを1METとした時の相対運動強度の事をいいます

 

 

 

では5METsってどれくらいの運動強度なのかと説明したいと思います

わかりやすいのがこの図になります

 

 

 

この表は3年前に石川県のやわたメディカルセンターで1週間ほどぼくが研修に行っていた際に頂いたものです

実際の診療場面や患者さん指導にも使われていました、ぼくもかなり便利なので普段の臨床でも使わさせて頂いています

ここでいう5METSというのは、ここにも書いてあるんですが「冠動脈疾患の予防や生命予後改善のための体力の目安です」となっています

日常生活で言えば、この図の様に活発な犬の散歩洗濯物を干す間の強度となります

下肢筋力で言えば、体重比45%BW、これはぼくのいる病院でもあるミュータスで求める事ができます

下肢のレジスタンストレーニングではこれくらいを目指しましょうという事です

 

6分間歩行距離で言えば540mで、自転車エルゴなどの有酸素運動ではこれくらいの全身持久力になるように目指しましょうという事

上肢の力で言えば、男性が30kg女性が20kgでこれぐらいの上肢筋力を目指しましょうという事になります

 

 

 

自転車エルゴ

自転車エルゴの初回は10~20Wで5~10分、1日2セットから開始して、1週間をかけて負荷量を少しずつ増やしていきます

 

 

 

ではその5METsを目指して自転車エルゴのワット数を上げていったらいいのでしょうか?

もちろんそんな事はありません

有酸素運動である自転車エルゴの目標とするwatt数にはいくつかの求め方があります

皆さんご存知だと思いますが、それはこちら

 

 

 

目標とする運動強度の求め方で最もエビデンスが高くて正確なのはCPXを使った方法です

CPXというのは、1台1000万円ぐらいする呼気ガス分析装置を使って運動負荷試験で求める方法なのですが、その時の無酸素性作業閾値の1分前のwatt数かAT時の心拍数です

もちろんぼくが今いる病院でもそんな装置がないので、これで求めるのは難しいです

急性期病院から転院された方でも今までCPXのデータを持たれている方はぼくが回復期病棟に異動してから2年間1例もありません ( ;´꒳`;)

あるととっても助かるんですけどね

 

 

なので簡単所でいうと安静時の心拍数プラス30、ただし心不全の患者さんの殆どが使われているβ遮断薬の内服等あると心拍数が抑制されているためプラス20とするという目安があります

 

教科書的には予想最大心拍数の50~60%で求めるという方法もありますし、karvonen(カルボーネン)法といって、心不全の重症度(NYHAの分類)によって定数を変えて求める方法もあります

 

 

NYHA(ニーハ)とは学校で習われたと思いますが心不全の重症度分類の事です

上に簡単な説明の図をのっけていますが、簡単に言いますと、

NYHAの1ってのは、心疾患と診断されているのですが全然症状のない人

NYHAの2ってのは、通常の日常生活では症状はでないのですが、階段昇降など運動強度の高い運動をすると息切れなどの症状のでる人の事で、この1と2の人の定数を0.4~0.5にして求めましょうという事です

 

NYHAの3ってのは、軽い日常生活動作でも息切れがする人です

この人は定数を0.3~0.4にして弱めにしましょうという事です

 

 

あれNYHAの分類の4がないじゃんと思った方はいると思うのですが、4の人というのは安静時でも息切れが生じている方でこの様な方には、基本的に有酸素運動もレジスタンストレーニングも行いません

それでないわけです

 

 

ただこのように心拍数を目安にする場合、先程ちょっと言った様にβ遮断薬を服用している方や、心拍数が固定されている固定型ペースメーカーを使われている方には心拍数での運動強度の設定が困難な場合があるので注意が必要です(⇒ カルボーネン法のHRを収縮期血圧に置き換えて用いる場合があります)

 

 

もっとも簡便で実用的なのは、Borg(ボルグ)スケール表を観てもらいながら行う方法で、運動中は11楽であるから13ややきついの運動強度になるようにして運動してもらうという方法です

 

 

Borgスケール表はコチラからダウンロードできます

 

Borgスケールと修正Borgスケールを併記したものはこちら

左側がBorgスケール、右側は呼吸リハでよく使う修正Borgスケール

Borgスケール_修正Borgスケール表(Borg scaleⅠ_Ⅱ)

 

 

 

このBorgスケールは結構実用的なのですが

心拍数から求める方法では弱すぎたり強すぎたりして使えなかったり、不整脈等で脈拍欠損のある患者さん、つまり心拍数と脈が異なる人は中々使えないんです

 

そこでおすすめの自転車エルゴのwattsの求め方があるので紹介します

それがこちら

 

 

 

こちらの方法は愛媛でいつも心リハの勉強会や講習会で講師をされる中屋先生から教えてもらった方法になります

それは歩行速度から求める方法になります

とっても実状にあっているのでぼくはこれをおすすめします

それは1分間に50mも歩けない様な人体重Kgに0.3をかけたものが目指すべきwatts数になります

1分間に100m以上歩ける様な人体重kgに0.8~0.9をかけたものになります

 

日本のフレイルの判断基準にも海外のフレイル判断基準にも歩行速度の項目がある事から、ぼくはこの決め方はとってもいいのではないかと思っています

あと頻度と回数については、40wattsまでなら5~10分を複数回

40~80wattsなら15分を1日2セット

80watts以上なら20~30分を週に3~5回と言われています

 

あと自転車エルゴを使用してもらいながら注意する事があるのでそれについて説明します

 

 

 

運動開始前後に血圧、脈拍を図り、胸部疲労感、下肢疲労感をBorgスケール表を見ながら答えてもらいます

時々バイタル等計測しないで自転車エルゴに乗ってもらって何も計測せずにして終わる方を見かけるのですが、一体何をされているのいつも不思議に見ています

 

可能なら運動後に脈や胸部疲労感(CF)、下肢疲労感(LF)が運動前のレベルまで戻るのにどれくらい要しているのかを図る事で、過負荷になっていないか、回復までの時間が短くなっていたら心肺機能改善してきているのか、患者さんだけでなくぼくら治療者の実感も得る事ができます

 

自転車を漕いでいる時には、特に運動耐容能が低い人ほど無酸素運動になりやいので、盛んに話しかけてちゃんと会話ができるかをチェックします(トークテスト

胸部疲労感がBorgでいうと11の楽である~13のややきついの強度になるように設定

また同一の強度時間なのに前日よりもBorgで2段階以上上がっている場合には警戒します

 

このスライドに載せていない注意点としては、自転車エルゴは下肢を下垂させて漕ぐため、数十分以上漕ぐとより末梢に血流が増加する事に加えて、有酸素運動による血管拡張作用により血圧が低下するリスクがあります

特に慢性心不全のように血圧が低めにコントロールされている症例にはめまいなどが生じやすいので転倒等注意して下さい

 

また自転車エルゴを使う際には脈をイヤーセンサーで測る事が多いと思います

いつもはしっかり計測出来ているのに急にロストしたり、やけに高くなる時が観られる場合があります

そういった場合は結構心房細動(Af)が起こっている事が多いので、たとえ自覚症状がなくてもすぐに休ませて、実際に脈を触れて欠滞や不整脈を確認しましょう

 

 

注意点は結構ありますが、それ以上に自転車エルゴのメリットがあるので紹介します

2008年の資料で古すぎて申し訳ないのですが、京都大学の市橋先生の講義で、先生がされた研究で筋萎縮を予防するには筋にどの程度の刺激を与えたら予防できるか実際にされた研究を紹介されていました

 

筋電図からのデータで歩数にすると1万歩ないと筋萎縮してしまうとことを言われていました

もしその一万歩をリハでするような運動で補おうとするなら、SLRで300回弱、スクワットで400回弱、起立着座で740回強ととんでもない回数が必要です

ぼくも多分1日でできないじゃないかと思うんですが、自転車エルゴ60W40分弱なら簡単にできるので、廃用予防に自転車エルゴを推されていました

最近の廃用予防の研究では、群馬県の中の条の65歳以上の全住民5000人を対象とした13年間の研究(中の条研究)でも1日8000歩は必要と言われているので、そんなに違いはないんじゃないかと思います

しかも8,000歩だったら、市橋先生のの自転車エルゴの時間をちょっと減らせるのでとっても実用的じゃないんかなと思うんですね

 

 

 

話はちょっと逸れましたがリスクを生じない様にするという事で4)の自転車エルゴの負荷強度の設定について説明したので、今後はレジスタンストレーニングの負荷強度の設定について説明します

 

 

 

 

レジスタンストレーニング

それは先程説明したNYHAの心不全の重症度に応じて負荷強度を変えるという事です

運動療法の基本にFITT(フィット)F:frequency(頻度),Intensity(強. 度),Time(持続時間),Type(種類)があったと思います

国家試験も普通にでる所だと思いますが、それらについて述べていきます

 

NYHAの1の人、日常生活で息切れなどの症状が生じない人に対しては、運動強度は50~60%1RMの強さです

50%1RMっての「全力の100%1RMの半分ぐらいでしょ」と単純に思われる方もいるかもれないのですが、全力なんで心不全の患者さんには高負荷過ぎて出してもらったらいけない訳なので、なんでその半分て分かるの?という当然の疑問があると思います

この辺の事も後から詳しく話をしていくので、このあたりはフンフンと流してもらえたらと思います

運動強度はその50~60%で、その回数としては6~10回、運動の種類は4~6種で、運動時間は15~20分になります

ポイントは運動している時間と休憩している時間で、休憩している時間が実際に運動している時間の2倍程度であれば安心と言われています

 

日常生活で息切れが生じる様なNYHAのⅡ~Ⅲの人はI の人に比べて運動の強度から回数、種類の数、運動時間も少なめになっています

 

 

 

その他のレジスタンストレーニングに関する事なのですが、このスライドの様に上肢の運動強度は下肢よりも少な目になっています

それは上肢の方が下肢よりも筋断面積が小さいので、同じ筋張力を発生させようとした場合、血圧が高くなってしまうためです

Borgスケールで12~13のややきついと感じる程度前後に合わせるのも実用的だとは思います

 

 

で先程いった50%1RMってどうやって求めたらいいのかという事なのですが、

求める方法が何通りかあるのですが、実用的なのは最大反復回数を使うという方法なんですね

 

左下の表を観てもらいたいのですが、%1RMが100なら最大反復回数は当然1回で

80%1RMなら8回、60%1RMなら17回となる訳です

つまり50%1RMというのは少なくとも20回以上繰り返そうと思ってたらできる程度の運動強度という事なんですね

 

意外と50%1RMって運動強度高そうやけど20回以上連続でやろうとおもったらできるぐらいの運動強度なので低く感じませんか

普段臨床でも10回がギリギリの運動強度でされている所を見かけますが、70~80%1RMの高強度でやってしまっている訳です

その方は心不全の方だったら負荷は強すぎます

 

どうでしょう?

ヒヤリとした方も中にはいるんじゃないでしょうか

 

 

 

でもいきなり50~60%1RMの運動強度から始めるのではなくて、自転車エルゴと同様に徐々に増やしていくという流れになります

 

初回は30%1RMぐらいの低負荷から開始して、その際にも運動している時間は休憩している時間の2倍ほどとって行います

はじめの方は低負荷で繰り返しの回数を多めにして、徐々に負荷を上げていくのに合わせて反復回数を減らしていきます

 

 

 

では最後に5)の過負荷を避けるについて説明していきます

まぁ4)の負荷強度の設定も過負荷を避ける事ではあるんでけどね

 

 

 

こちらも中屋先生の講義で教えてもらった事になります

 

脈拍で過負荷(over work)になっていないのかをみます

ただ注意が必要なのは脈拍数と心拍数に差のあるような心房細動があったりする方です

そういう不整脈がない様な方に対しては脈拍を計測する事はとっても有効な手段になります

ぼくの病院にも運動療法中、心電図モニタを無線で飛ばしてくれるような装置がないので

 

運動後1分で脈拍が13拍より多く回復する場合や運動後2分27拍より多く回復するかベースラインまで回復する場合は過負荷になっていないと判断します

昔からあるアンダーソン・土肥の基準でも「運動を一時中止し、回復を待って再開する場合」として「Pulseが運動時の30%を超えた場合。ただし2分間の安静で10%以下に戻らぬ場合は、以後の運動は中止するかまたは極めて軽労作のものに変更する」ってのがありましたよね

それよりも使いやすい印象です

 

運動後の脈拍は運動後の血圧はみないの?と疑問に思われる方もいてると思いますが、収縮期血圧が40以上あがっていたり、拡張期が20以上上がっていたら中止はするんですが、普通は運動したら上がります

なので運動直後に上がり過ぎた場合や下がった場合は「あかん」と判断しますが、血圧が戻るのを計測する事はありません

それば血圧は心拍数(脈拍)ほど回復に対して鋭敏ではなく、少なくとも3分ぐらいかけてゆっくり回復するからです

 

 

 

特に心不全の方に有効ではないかとぼくが感じている方法なのですが、運動中に話かけてちゃんと会話ができるかどうかをみるトークテストという方法です

ちゃんと会話ができる状態というのは、無酸素性作業閾値を超えていない状態とも判断できるため、心不全の重症度が高ければ高い人ほど、今行っている運動強度が高すぎてやしないかチェックするためにも話かけるようにしましょう

心不全の方の自覚症状で一番多いのは息切れなので、特に呼吸に現れやすいので実用的と感じています

 

 

 

まとめ

まぁ長々とぼくが今いる病院でとりあえずすぐに出来そうな事を中心に書いてみました

 

始めの方では、入院している患者さん、またこれから入院してくだろう患者さんは心不全の方ばっかりという話をしました

 

で、その心不全に対してはフレイルの影響が大きく、そのフレイルを良くするためには中~高強度の運動が必要なんだけど、リスク管理が必要ということで、リスクをできるだけ減らすために、普段の臨床ですぐに使えそうな事を中心に述べました

 

最後に、ぼくらの介入(リハビリ)は薬と全く同じと考えています

安全限界を超えれば身体を害しますし、有効限界未満であれば薬自体出してない事になります

ちょうどいい見極めが本当に大変なんですね

だからこそぼくらがいるんだと思います

 

また自分や自分の所属するリハビリテーション科のリスク回避ためにも、周りの同僚、上司、多職種に相談しながら行う事をお勧めします

なので今回、ぼくが書いた内容を参考に自己責任でしてみて下さい

 

 

最後の最後に

患者さんや患者さんのご家族の良くなりたい(良くなってもらいたい)という思いで、もし入院されているのなら、少なくとも安全限界未満有効限界以上のリハビリを提供するのがプロであるぼくらの義務です

詐欺的なリハを提供してはまずいですし、してもらいたくありません

 

でも、ぼくらがリスク管理をどんなに気をつけていても、ぼくらも人であり患者さんも人であるため想定外の事(ミス)は必ず起きます

なのでそういう時のために、ぼくらのリスク管理として保険は必須だと思うんですね

 

ここにも書いたのですが、最近裁判でも理学療法士個人の責任を問われ3,600万円払わないといけない判例もみられています

病院が必ずしも守ってくれる訳ではないんです

 

確かに理学療法士協会の会員になるだけで、1事故100万まで保証してくれますが全然足りません

でも追加で月々300円払うだけで1事故1億、年間3億まで保証されます

ペットボトル2個分のお金でこの安心が買えるんですよ

 

安すぎ!

 

何億という資産を持っていない方は必ず入るべきです

自分や自分の回りの方を守るために

そして何より患者さんにいいリハビリを提供するために

 

 

 

最後まで見て頂きありがとうございました m(_ _ )m

 

どこかのだれかの参考になれば嬉しいです

頑張っていきまっしょい!

 

あっ問題の解答を忘れていました

こちらになります

心臓リハビリテーション(ブログ解答編)

 

 

引用・参考文献

 

 

 

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(2018/4/29) 認定必須講習会(循環)に向けて準備***② 
(2018/5/6) e-ラーニング(技術編Transferシリーズ)を受講***③ 
(2018/5/19) 広島までポイントをゲットしにいく(非外傷製慢性下肢創傷形成予防研修会)***④ 
(2018/9/10) 必須研修会(循環)と 指定研修会受講 と ポイント申請***⑤ 
(2018/10/15)理学療法士協会からポイント反映のお知らせが届く***⑥ 
(2018/11/1)受験のためのweb申請終了***⑦ 
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高血圧治療に関する勉強会に参加(今治医師会勉強会)
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心臓リハビリテーション(リスク管理)

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