呼吸介助についてまとめてみたよ!
はじめに
前回は「呼吸介助」と「スイクージング」の違いについて説明したので、ぼくがおススメする「呼吸介助」についてのまとめてみたいと思います
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呼吸介助とは何なのか?
「患者の胸に手を当て、呼気に合わせて胸郭を生理的な運動方向に圧迫し、吸気時には圧迫を解放することを繰り返すもの 1) ,2)」と定義されています
呼吸介助の効果は?
主な効果は「換気の改善」です
それに伴なうような形で、
①気道内分泌物(痰)の排出促進 ②呼吸困難感の軽減 ③肺胞低換気・無気肺の改善 ④胸郭可動域の柔軟性の維持・改善 |
などが挙げられます
では、一体どのくらい換気が改善するのか気になる所です
呼吸介助をした際の換気量の変化を調べた研究は幾つかあるのですが、その中でもぼくが知っている最新のものを挙げます
「呼吸介助習熟度評価表の評価者間一致度及び一回換気量増大に影響する要素の検討.田中貴子等.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2015年第25巻第1号95-98」より引用改変したものです
上の図で分かる様に呼吸介助をすると、安静時の約2倍近く換気量が増えます
これが呼吸介助の効果なんですね
呼吸介助のエビデンスは?
呼吸介助は徒手的なものであるためそれを定量化し研究してエビデンスを構築するはとても難しいと思いますが幾つかの研究が報告されています
●中等症から重症のCOPD患者に対する即時効果として、1回換気量の増大や予備呼気量の減少、呼吸補助筋の酸素化改善、さらには呼吸困難感の軽減が得られる(Tanaka,Kozu R:Effect of manual breathing assist technique on deoxygenation of sternocleidomastoid and lung volumes in patinents with COPD.Eur Respir J52(suppl62):PA1706,2018)
●重症COPD患者に対して、呼吸介助法と呼吸補助筋のリラクセーションを組み合わせて施行することで、肺気量および呼吸困難感を有意に減少させる(松本香好美,他:呼吸理学療法が重症肺気腫の肺気量に及ぼす即時的効果についての検討.総合リハ32:577-582,2004)
呼吸介助の適応は?
換気改善が目的であれば、急性あるいは慢性呼吸障害を問わず適応 1)2) |
具体的には「呼吸介助の効果の所」と重複するのですが、①慢性呼吸不全や術後・人工呼吸器に依存者などでの去痰困難がある場合、②労作時呼吸困難がある場合、③気管支喘息重積発作時、④急性期無気肺の予防と治療、などが挙げられます
呼吸介助の禁忌は?
換気改善が期待できない、あるいは必要ない場合は適応外 |
絶対してはいけないという絶対的禁忌 1)としては、胸部の広範な熱傷による植皮術後です
当然、皮膚が定着しようとしているのに、胸郭を触って皮膚をずらしてしまうと治療を阻害していまうからですね
またDrと相談した上で場合よってはOKをもらえる相対的禁忌 1)としては、循環動態の不安定な患者、多発肋骨骨折、離開した術創の存在、脆弱化した皮膚・骨粗鬆症の合併です
肋骨が折れている場合でも認められる場合があるという事が驚き
呼吸介助って万能?
ここまでみると、適応範囲も広いし禁忌も少ないから呼吸介助って万能って思われる方もいるかもしれません
しかし、侵襲性は必ずある ので以下のような問題提起をする研究が報告されています
ARDS症例に対して呼吸介助を施行した結果、気腫性変化の増悪を増長した可能性 |
神津 玲:徒手的呼吸介助手技による人工呼吸関連肺損傷.日集中医誌 Vol.14(2007).No.2 p141-143
換気悪化の原因がわからないまま呼吸介助を行っても、瞬間的な効果となってしまう |
高橋 哲也.心疾患患者に対する呼吸理学療法のエビデンス.理学療法科学Vol. 21 (2006) No. 3 p311-316
上記2つの論文とも極論すれば、呼吸介助にもリスクがあるから、「する前の病態把握」 が重要ですよという事を言われたかったんではないかと思っています
ここはとっても大事なので、さらに詳しくコチラに記事を書きました
息苦しいから呼吸介助?(息切れがあっても呼吸介助の意味がない場合)
これらの事を踏まえた上で、実際の呼吸介助の手技について説明していきます
呼吸介助手技
((注意点))
これから紹介する呼吸介助は、ぼくが実習や講習会で実際に教えてもらい、ぼくというフィルターを通したものです。そのため指導して頂いた先生方の意向とは異なると思いますので、参考程度にしてもらったら助かります。ガシガシ呼吸介助について学びたい方は、以下の長崎大学の千住先生が主催されている「長崎大学公開講座」や、伊藤先生が主催されている「日本肺理学療法研究会」の講座を受講される事をオススメします。 |
●「長崎大学公開講座」
●「日本肺理学療法研究会」
ではいってみましょう!
呼吸介助する際のポイント
①いきなり動かすのではなくて、まずは患者の胸郭の動きを感じます
最初の2~3呼吸は触れておくだけ。この時に胸郭の動く方向を把握します。動きに関しては上位肋骨はポンプハンドルモーション、下位肋骨はバケットハンドルモーションなど言われますが、結構個人差がありますよ。患者さんの胸郭の動きに合わないと、痛みにつながり胸郭運動が変わってしまいます。
②胸に触れる際には手掌全体で触れます(= total contact :トータルコンタクト)
何も意識せずに胸を押すとどうしても指先、母指球や小指球に力が入りやすくなって、痛みに繋がってします。そのため意識的に指節関節(DIP関節,PIP関節)に力を入れるように意識すると力が分散されやすいです。
③手で押さない
手は患者さんの胸の動きを感じるセンサーです。吸気のタイミングで押してしまって呼吸を邪魔しないために、手はフリーにしておきましょう。胸郭を押す際には、施術者の重心移動を患者さんに伝える様にして圧迫します(後から詳しく説明)
④治療中は手を胸から離さない
押す度に胸にペタペタ手を当てると患者さんは不快です。吸気の時も施術者の手は胸の上に載せておきます。載せておくだけで圧はかけません。
⑤患者と離れすぎない
患者と離れすぎると手で押してしまう事に繋がるので、できる限り患者さんの負担にならない範囲で近づいて施行します。
⑥患者の呼気に合わせて毎回呼吸介助をしなくてもいい
呼吸数の多い患者に対して毎回呼気に圧迫を加えるのは困難です。患者の呼気のタイミングに合わせれる時に圧迫を加えましょう。毎回圧迫を加えようとして強く押しすぎてみたり、圧迫する方向がおかしくなる方が問題です。
呼吸介助の実際
以下の使用頻度の多い5つについて説明していきます。
1. 背臥位 での上部 胸郭介助 2. 背臥位 での下部 胸郭介助 3. 座位 での 上部 胸郭介助 4. 側臥位 での 胸郭介助 5. 腹臥位 での 胸郭介助 |
1.背臥位 での上部 胸郭介助
①施術者は患者の頭側に座る
②鎖骨に触れないようにして、鎖骨の下に両掌を置く。
鎖骨に触れないようにするのは、胸郭運動に伴い鎖骨の骨運動も観られるためそれを妨げない様にするためです。 ちなみにスクイージングでは鎖骨に掛かる状態で圧迫を加えます。その辺もちょっと違いますね。
③施術者の肘は軽く曲げておく。
胸郭の動きが理解できたら、施術者は患者さんの尾方向に向けての重心移動をし、それをを伝える様にして圧迫します。肘伸ばしきった状態で圧迫してしまうと、圧が強過ぎてしまいますので、少し肘は曲げましょう。
④患者の呼気に合わせて、下方へ45°※押し下げる。
※あくまでも目安。最初に手を触れて感じた、患者の胸の動く方向へ動かします。
一連の流れです
2.背臥位 での下部 胸郭介助
①施術者は患者の横に片膝と立てて座る
②両手を拡げ、両母指が剣状突起付近にくるようにする。
また肋骨弓に掛からないように両手を下部胸郭に置く。肋骨弓に掛からないようにするのは、肋骨弓に掛かってしまうと、肋骨弓の端で皮膚に部分的に強い圧が掛かって痛みを引き起こしやすいからです。
③両肘を軽く曲げておく、胸郭の動きが理解できたら、骨盤に向けて絞り込まず、筒のようにまっすぐ骨盤方向へ引き下げる※(あくまでも目安。最初に手を触れて感じた、患者の胸の動く方向へ動かします)。 この時、施術者の重心移動で圧迫を加えるため、施術者の手は患者の尾方向に行きますが施術者の体は患者の頭側に重心移動する。
一連の流れ
3.座位 での 上部 胸郭介助
①施術者は患者の側方にできる限り密着して立つ。
離れると手に力が入ってしまいます。
②片方の手掌を胸骨柄に、一方は肩甲骨の間に置き、胸郭を挟み込む。
この時手が鎖骨に掛からないように注意。鎖骨に掛からないようにするのは、鎖骨の骨運動を妨げないためです。
③施術者の肘は軽く曲げておく、胸郭の動きが理解できたら、胸郭の動く方向に向けて施術者も重心移動を行い、呼気時に胸骨を呼気の運動方向へ軽く圧迫します。
一連の流れ
正面からみるとこんな感じ
4.側臥位 での 胸郭介助
①施術者は患者の後方に片膝を立てて座る。
②両母指を腋窩中線上に置き、胸部を前後で挟み込む。
③施術者の肘は軽く曲げておく、胸郭の動きが理解できたら、呼気に合わせて骨盤方向に斜め下方に押し下げる
※(あくまで目安。最初に手を触れて感じた患者の胸の動く方向へ動かします)。この時、施術者の重心移動で圧迫を加えるため、施術者の手は患者の尾方向に行きますが、施術者の体は患者の頭側に重心移動します。
一連の流れ
施術者目線でみるとこんな感じ
5.腹臥位 での 胸郭介助
①施術者は患者の側方に片膝を立てて座る。
②両手を拡げ、肩甲骨に手掌全面を密着させる。
③胸郭の動きが理解できたら、呼気に合わせて下方(床)に圧を加える
※(あくまで目安。最初に手を触れて感じた、患者の胸の動く方向へ動かします)。この時、施術者の重心移動で圧迫を加えるため、施術者の手は患者の腹側に行きますが、施術者の体は患者の頭側に重心移動します。
一連のながれ
別の視点から
おわりに
呼吸介助ってこんなものなのかと、大まかに理解してもらえたら何よりです
呼吸介助の習熟は、自分が呼吸介助をして相手からフィードバックをもらったり自分が呼吸介助をされる事で分かってきます
呼吸介助をしてみて相手から「痛くない」や「楽」、「息がしやすい」などのフィードバックがもらえたり、患者さんに対する時には、Spo2の回復が呼吸介助をしない時と比べて早かったりしたのなら、上手いことできているんじゃないでしょうか
まずは過呼吸にならない程度に健常者同士で練習してもらえたらと思います
ぼくでよければ、愛媛の東予あたりなら趣味(もちろん無料)でお手伝いに行けるかもしれませんのでご連絡下さい
1ヶ月前ぐらいまでに連絡頂けると平日でもいける場合があります(・_・;)
コチラ まで⇒ gyoukouseiranPT@gmail.com
この呼吸介助は臨床では有効と実感はあるのですが、エビデンスを求められると難しいですね
日本発の技術として世界に広まっていってくれることを祈念しています
最後まで読んで頂きありがとうございました
がんばっていきまっしょい!
関連リンク
・自分で痰を出しやすくする方法(ハッフィング)についてまとめてみた!
・呼吸介助についてまとめてみたよ!
・ポストリフトって知ってます?(ぼくがよくする肺理学療法手技)
・息苦しいから呼吸介助?(息切れがあっても呼吸介助の意味がない場合)
・「呼吸介助」 と 「スクイージング」の違いについてサクッとまとめてみた
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引用・参照文献
1)千住秀明,眞淵敏,宮川哲夫 監: 呼吸理学療法標準手技.医学書院. 2008
2)千住秀明 監: 長崎大学公開講座. 慢性呼吸不全 part21. 2007
・千住秀明:呼吸リハビリテーションと運動療法(第一回和歌山紀北リハビリ勉強会配布資料).2007
・宮川哲夫:肺理学療法の実際.人工呼吸7(1).1990
・宮川哲夫:動画でわかるスクイージング―安全で効果的に行う排痰のテクニック.中山書店.2005
・日本呼吸ケアリハビリテーション学会呼吸リハビリテーション委員会ワーキンググループ (編):呼吸リハビリテーションマニュアル-運動療法- 第2版.照林社.2012
・真渕 敏:早わかり呼吸理学療法―ナース次第でみるみるよくなる!ラクになる! .メディカ出版.2004
・佐野裕子:病棟でおこなう肺理学療法.関西看護ケア研究会.2005
・難病と在宅ケア Vol.17.No.11.p39~42. 2012
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初めまして。最近このブログ記事をみて練習している看護師です。今copdの方を訪問することが多く勉強しています。座位のやり方をまず練習しているのですが力加減が下手なのか胸骨辺りがいたいといわれます。(家族に)手を置く位置が写真のように胸骨を前後で挟む位置ではなく片肺を前後で挟むように(介助の力の向きは写真と同じ)でやれば空気がだされている感じで痛くもないと言われました。そのようなやりかたでもいいのでしょうか?分かりにくい文章で申し訳ないです…。
コメントありがとうございます
お近くに呼吸介助をされている様な看護師さんか理学療法士がいれば観てもらうのが一番いいのですが
なかなかいないですよね
慣れないと胸骨あたりのかかる圧が部分的に強くなって(特に母指球あたり)痛みを引き起こしやすいのは呼吸介助あるあるだと思います
手掌だけではく手指にもきちんと圧がかかっているか
患者さんとの距離は適当か(遠すぎると手全体で圧をかけにくいです)
患者さんの胸郭の動きの方向に圧迫できているのか ets…
それらを気をつけた上でも痛みがでるようであれば
痛みがあるとどうしても正常な胸郭運動ではなくなってしまうので
痛みが無いような形でして頂けた方がいいとぼくは思います
ご丁寧にありがとうございますm(__)m周りにいなくて、見よう見まねでやっています( ノД`)…痛みが伴わないように練習していきます❗