北川知佳先生の呼吸の勉強会 (運動時の酸素増量とCO2ナルコーシス)
はじめに
先日の土曜、松山市民病院で呼吸の勉強会があったので行って来ました
講師は北川先生で、何年か前に長崎での公開講座で拝聴させて頂いたので今回で2回目となります
今回の講義で特に印象に残ったことは、北川先生の勤めるクリニックのリハ室で運動療法をされている患者さんの動画や写真
その中で、なんと結構な数の患者さんがリザーバーマスクを装着しながら歩行練習や自転車エルゴをされていたんですね
ICUやCCUの病室で患者さんが装着しているのはよく見かけますが、リハ室で見るのはむっちゃ新鮮
リザーバーマスクとはこんなの
http://item.rakuten.co.jp/shopdeclinic/400017855/ より 引用
むっちゃ高濃度の酸素を吸えるものです
なぜリザーバーマスクだと高濃度の酸素を吸うことができるのかを簡単に説明
患者さんによく使われている鼻カニューレでは、吸入した高濃度の酸素を一時的にためておけるのは、鼻腔・口腔・咽頭などの非常に限られた部分しかなく、肺の中に入る空気のほとんどは通常濃度の酸素であるため、カニューレで供給される高濃度の酸素はかなり薄まってしまいます
しかしリザーバーマスクでは、高濃度の酸素は鼻腔や口腔だけではなくリザーバーマスク内の高濃度の酸素が肺内に入るため、供給される酸素が薄まる事が少ないんですね
図ではこんな感じ
メディカルイラスト図鑑 様より引用改変
↑ 斜線部分が肺内に入る高濃度の酸素になります
リザーバーマスクを使った場合とカニューレではその量は全然ちがうでしょ
具体的な濃度についてはコチラ
国立療養所近畿中央病院 呼吸管理マニュアル 安藤守秀 著 P46より 引用改変
話を戻します
北川先生に質問してみた
呼吸リハビリテーションでの講習会や勉強会に参加すると
「特に慢性の呼吸不全の患者さんほど、安静時に急に高濃度の酸素吸入をするとCO2ナルコーシスを引き起こしやすいが、運動時には換気が促進するためCO2ナルコーシスとなるリスクは低い。そのため運動時には酸素療法のベネフィト(利益)が多いので、安静時に比べ高流量とすべき」
という話をよく聞きます
聞いた時にはああそうなのかと納得したのですが
運動時の酸素流量を上げる事に対して、CO2ナルコーシスを気にして嫌がるDrに遭遇する度に、運動時にリスクが低いという事が書かれている文献はないものかと探していました
ぼくの臨床は訪問看護(訪問リハビリ)なので
確かに在宅できちんと流量を調節できる程度の認知面が保証できる所までの評価をDrがするのは厳しいと思います
また認知面で大丈夫と思われた方の中にも、ついうっかり酸素流量の戻し忘れる事というのはあると思います
酸素流量を戻し忘れてCO2ナルコーシスとなり、それで命を落とす事に比べたら酸素流量を上げたくない、という気持ちも十分分ります
ただぼくらセラピストが隣で見守っているリハビリ介入中は、ぼくらに責任がある訳ですから認めて欲しいんですね
できるだけ息苦しさが少ない状態で運動してもらいたいじゃないですか
CO2ナルコーシスになる前には、Spo2が正常でも必ず呼吸数が減少したり、意識障害がでたり(ボーとしてくる)するので、すぐ傍でみているぼくらセラピストには分かる訳です
ぼくらってそんなに信頼感がないのですかね
いやぼくらというより…ぼくだけなのかもしれませんが(・_・;)
呼吸に関する論文を見ていると、「歩行時に酸素投与量を増量すると、歩行時のSpo2値を上昇させ、脈拍の上昇を抑制し、息苦しさの改善、持続歩行距離の延長に有用であった」とする文献 (塩出昌弘等:慢性呼吸不全患者における運動時酸素投与量の検討.IRYO Vol.48 No.6 409?414.1994.6) など、は見つける事が出来たのですが、CO2ナルコーシスとの絡みで言ってくれている様な文献は残念ながら見つける事が出来ませんでした
そこで今回講義中に北川先生に思いきって上記の事を伝え、
「運動時にはCO2ナルコーシスとなるリスクが低い」ということを言ってくれる様な文献を教えて欲しい
と質問してみたのですが、答えは
「ないと思います」
とのことでした(;ω;)
各患者によって個別性が高いため、私が質問したように一般化したことは言うのは現実的に難しいのかもしれません
もし参考になりそうな文献をご存知の方がいれば、教えていただけたら助かります
【追記.2013/11/8】
臨床リハvol.22 No.1 p14に「運動時吸気酸素量を少し増やしても、運動時には換気量が増すので、高炭酸ガス血症が増悪する事は稀である。」と簡単に記載されていました
もっと詳しい文献カモン❗️
【追記 2020/11/13】
2020年に参加した日本理学療法士協会主催の認定理学療法士(呼吸)の必須講習会にて、「Spo2≧90を保つ酸素投与はエビデンスレベルD(委員会によるコンセンサスによる判断)」と話をしていただけました
呼吸リハの下肢・全身持久力トレーニングの効果がエビデンスレベルA(RCT+大量のデータ)に比べてかなり低いみたいです
ちなみに高濃度酸素投与による酸素毒性に対して簡潔にまとめてくれているHPがあったので紹介します
SpO2の落とし穴 ~酸素投与患者の「SpO2 99%」を見て安心してませんか?~ | EARLの医学ノート
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COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんの息切れを軽くするために
①COPDの患者さんが医療従事者に望む事は?
②「禁煙」しないとリハビリしても意味はない!
③「薬物療法」 と「酸素療法」に加えて「リハビリ」をする効果は?
④腹式呼吸は指導すべき?
⑤横隔膜の同定には打診!
⑥息苦しい動作をする時のコツを知っていますか?
⑦息苦しい動作の評価の仕方(医療従事者向け)
⑧COPDの患者さんには食事(栄養療法)が大切な理由
⑨なぜCOPDの患者さんは筋トレをしないといけないのか?
⑩「筋持久力」と「全身持久力」との違いはわかりますか?
呼吸理学療法手技
・ポストリフトって知ってますか?
・「呼吸介助」 と 「スクイージング」の違いについてサクッとまとめてみた
・呼吸介助についてまとめてみたよ!
・息苦しいから呼吸介助?(息切れがあっても呼吸介助の意味がない場合)
・自分で痰を出しやすくする方法(ハッフィング)についてまとめてみた
吸引回数を減らすために
①ゴロゴロ(貯痰留音)するからといって反射的に吸引していないですか?
②動く(動かす)と吸引回数が減る理由はわかりますか?
聴診
①前から見た時の、上・中・下葉の見つけ方
②横と後ろから見た時の、上・中・下葉の見つけ方
③肺区域(S1~S10)の場所の見つけ方
④なぜ肺から音が聞こえるかわかりますか?
⑤正常な音と、そうではない音との聞き分け方